← OLD     BACK     NEW →
超有名だけど名前は知られていないおじいさんの日記。

「皆さん。ここに1冊の日記があります。この日記の持ち主は、おそらく皆さんもよく知っている人物です。しかしながら名前は知られていません。これから皆さんにこの日記の一部をご紹介します。この内容を聞けば、皆さんもこの日記の持ち主が誰なのか分かるはずです。では……」

------------------------------------------------------------

●月●日
浜辺で子供達にいじめられていたカメを助けたら、竜宮城に連れて行かれた。
竜宮城にいた乙姫様は大変美しく、頂いた料理も大変おいしい。
タイやヒラメの踊りに見とれて、私は時が経つのも忘れた。
お土産に玉手箱をもらって帰った。
玉手箱を開けてはいけません。と言われていたが、せっかくお土産にもらったのに開けなくては意味がない。私は玉手箱を開けた。
すると中からもわもわと煙がたち、私は煙に包まれた。
気付いた時には、私はおじいさんになってしまっていた。

------------------------------------------------------------

●月●日
いきなりおじいさんの姿になってしまった私の姿を見ても、誰も私だと気付いてくれる者がいない。当たり前だ。昨日まで私は16歳だったのだから。
大変困った。
仕方なく、私は山すその小屋でひっそりと暮らす事にした。
父さま、母さま、ごめんなさい。

------------------------------------------------------------

●月●日
こんな山すそでも、人との出会いはあるものだ。
私はひとりのおばあさんと出会った。お互いに寂しい者同士。
これからこの小屋で、共に静かに暮らす事にした。

------------------------------------------------------------

●月●日
川へ洗濯をしに行ったおばあさんの帰りが遅いので心配になった。
やっと帰ってきたおばあさんは、大きな桃を背負っていた。川で洗濯をしていたら、上流の方からこの桃が流れてきたらしい。
こんな大きな桃は見た事がない。私は少しイヤな予感がしたが、おばあさんが桃を食べたそうにしていたので、桃を切った。
すると、桃の中から男の赤ん坊が出てきた。大変びっくりした。
知らない赤ん坊だが、どこかへ捨てるわけにもいかない。
赤ん坊に「桃太郎」というテキトーな名前を付け、仕方なく育ててやる事にした。

------------------------------------------------------------

●月●日
山へ芝刈りに行く途中、立派なマサカリを見つけた。このマサカリを使えば、芝刈りがいくらか楽になりそうだ。
帰り道、熊と相撲をとって遊んでいる不思議な少年を見かけた。赤い布切れ1枚を体に巻いた変な少年だ。しかも熊と相撲をとっているなんて命知らずにもほどがある。
さっき見つけたマサカリはあの少年のものかも知れないと思ったが、熊が恐いのでその場を急いで去った。

------------------------------------------------------------

●月●日
突然、桃太郎が鬼退治へ行く。などと言い出した。
ああ、育て方を間違えただろうか。鬼なんてこの世のどこにいるというのか。
おかしな事を言う桃太郎を私は止めようとしたが、おばあさんはキビ団子まで作り出してはりきってしまっているので何も言えずじまい。
桃太郎は『日本一』と書いた恥ずかしい旗を背中に立て、出発した。
熊と相撲をとっていたあの怪しい少年に出会わなければいいが。と思った。

------------------------------------------------------------

●月●日
小屋の隣にある池の中に、大事なマサカリを落としてしまった。
すると驚いた事に池の中から綺麗な女神様が出て来た。
女神様は「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?それともこちらの銀の斧ですか?」と私に聞いた。私は正直に「いえ、普通のやつです。しかも斧ではなくてマサカリです」と、斧とマサカリの違いもよく分からないまま答えた。「このマサカリの事ですか?これがあなたのものなのですね?」と女神様が聞くので、私は「とりあえず私のものというか……まぁ、今はたぶん私のものなんですけど」と答えた。女神様はにっこりと微笑んで「あなたは正直な人ですね」と言って、マサカリを返してくれた。さらに金の斧と銀の斧の両方もくれた。
しかし私は、芝刈りをするのにこんな派手な斧はいらないなぁ。と思ったので銀の斧だけを残して、金の斧は後で池の中へそっと戻しておいた。
銀の斧を残したのは、まぁ、何となく。

------------------------------------------------------------

●月●日
芝刈りへ行く途中に通る竹やぶの中で、1本だけ光る節のある竹を見つけた。
不思議に思いしばらく見ていると、その竹はいっそう激しく光を放ち始めた。
また変なものを見つけてしまった。竹の中からは今にも何かが出てきそうだ。と、言うよりもたぶん姫が出てきそうな予感がする。いや、何となく。そんな気がする。
まずい。これに関わるとまた厄介な事になりそうだ。
私はそれを無視する事にした。きっと、いつもここで竹取りをしているじいさんが発見して何とかしてくれるだろう。

------------------------------------------------------------

●月●日
こんな山すその小屋に珍しく客人がやってきた。色の白い若い女だった。
しかし女が、「わたしはこの前助けて頂いた鶴です。恩返しに来ました」などと訳の分からない事を言い出したので帰ってもらった。私は鶴など助けた覚えがない。きっと人違いだ。

------------------------------------------------------------

●月●日
小屋の庭先にある枯れた木々に、綺麗な花を咲かせる能力を身につけてしまった。
なんだこの能力は。

------------------------------------------------------------

●月●日
目の前を、親指ほどの小さな姫が歩いて通り過ぎたように見えたが、きっと気のせいだろう。

------------------------------------------------------------

●月●日
一寸ほどの小さな侍を踏みつぶしてしまったような気がしたが、そんな小さな侍なんているはずがない。きっと気のせいだろう。
でもなぜか足の裏に針が刺さっていた。痛かった。

------------------------------------------------------------

●月●日
桃太郎が無事に帰ってきた。鬼なんてどこで見つけたのか。それを退治して、お宝をかっぱらって来たと言う。あぁ、やはり育て方を間違えたようだ。桃太郎の瞳はもう、昔の純粋な瞳ではなくなっていた。
桃太郎が連れて帰って来たうるさい犬が、庭の中央の地面の上で「ここ掘れワンワン」と鳴きまくるので仕方なく掘ってやると、中から金銀財宝がわんさか出てきた。
小屋の中があらゆる財宝で埋め尽くされて、寝る場所もなくなるくらいだった。
大金持ちになれたのは嬉しいが、犬と猿とキジの糞の後始末が私の仕事になってしまった。一体なんなんだ、この動物達は。

------------------------------------------------------------

●月●日
柿の木の上に登った猿が、木の下にいるカニに向かって青い柿を投げつけている。妙な猿だ。どうせなら桃太郎ももう少しマシな猿を連れて帰ってくれば良かったのに。
夕方、小屋の軒下に置いてあったはずのウスがなくなっている事に気付いた。おばあさんに聞いても知らないと言う。
あとで食べようと思って楽しみにとっておいた栗もなくなっていた。これもおばあさんに聞いてみたが知らないという。本当は私の知らない間におばあさんが食べてしまったんじゃないか、と疑った。

猿が帰ってこない。

------------------------------------------------------------

●月●日
年越しの準備で忙しい。
村の方へ買い物へ行く道中、雪まみれになったお地蔵様達が気になったが、笠をかけてやるなんていう優しさは私にはない。決してない。断じてない。あるわけがない。
しかしそれ以前に、こんなにたくさんのお地蔵様達にかけてやれる笠をもっていない。
誰か笠をたくさん持った人が通りかかってくれるように。と手を合わせておいた。

------------------------------------------------------------

●月●日
おばあさんが、「実はわたしは昔、この山の雪女だったんじゃ」とか何とか言い出した。
ついにおばあさん。ああ。始まってしまったか。かわいそうに。

------------------------------------------------------------

●月●日
私もこのままでは確実に年老いていくばかりだ。そうだ。何か趣味を持とう。指先を使う趣味がいい。
小屋のまわりにたくさんある木々を使って、人形作りを始めた。
はじめて作った人形には『ピノキオ』と名付けた。

------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------

「……という日記です。何を隠そう、この日記の持ち主は私のおじいちゃんのおじいちゃんの、そのまたおじいちゃんである先祖の……」

「嘘だー」
「絶対に嘘だー」
「そうだー。100パーセント嘘っぱちだー。とくに最後の方は、なんつーか…シリーズ的にも間違ってるし、120パーセント嘘っぱちだー」

「皆さん、静粛に願います。日記は今ので最後ではございません。この日記の最後のページをご紹介します」

------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------

●月●日
木で作る人形にも飽きてきた。今度は鉄を使って人形を作ろう。
とりあえず作り始めたが、『鉄人1号』は失敗に終わってしまった。
28号くらいまでには頑張って成功させたいと思う。

------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------

「……という日記で最後は締めくくられて……」

「嘘だー」
「絶対に嘘だー」
「そうだー。200パーセント嘘っぱちだー。もうなんつーか…めちゃくちゃだー」

2003.08.27.

ある愛の話。

「律子…律子…」

父さんは苦痛に顔を歪めながら、その名を何度も呼んだ。ベッドの横にいた母さんがそれに応える。

「あなた……私はここにいますよ」

母さんは父さんの手をぎゅっと握り、優しく微笑んだ。
父さんが逝こうとしていた。

「律子…あとはよろしく頼むぞ……」

それが父さんの最期の言葉だった。

--------------------

「律子さんというのはね……」

父さんの葬儀が済んだ夜、母さんはゆっくりと話し始めた。

あの時、父さんが何度も呼んでいた『律子』という名前。それが誰の名前なのか、僕は知らない。
そう。母さんの名前は『幸江』だ。『律子』なんて名前じゃない。なのに母さんはあの時、父さんの呼び掛けに応えていた。それが僕には分からなかった。

「律子さんというのはね……父さんと母さんが結婚する前、まだ父さんも母さんも高校生の時なんだけどね。その頃に父さんが愛していた女の人の名前なのよ。律子さんと父さんと母さんの3人は仲が良くてね。同じ学級にいたクラスメートだったの」

びっくりした。
父さんと母さんが結婚する前の話なんて、今まで一度も聞いた事がなかったから。いや、そうじゃない……昔の話とはいえ、母さんが父さんと他の女の人の話をする事そのものが、僕の胸を何となくもやもやさせた。

「律子さんはとても綺麗な人でね。頭も良くて優しくて……クラスの女子生徒はみんな律子さんに憧れてたわ。うふふ、もちろん母さんもね。律子さんとはいつも一緒にいたんだけど、こんな女性になりたいわぁって毎日のように思ってたわ。律子さんの髪型をまねてみたりしてね。そんな律子さんの心を射止めた男子生徒が父さんだったのよ。父さんも若い頃はねぇ、あれでもけっこうカッコ良かったのよね、うふふ」

母さんは少し笑いながら父さんの写真に目をやり、またゆっくりと話し始めた。
僕は若き日の父さんと母さん、そして律子さんの顔を想像しながら聞いていた。父さんと母さんと律子さん。仲の良い三人の、微妙な三角関係を思い浮かべてみた。

母さんの話によると、父さんと律子さんの二人は、クラス全員どころか学校全体が認めるくらいお似合いのカップルだったらしくて、まわりの誰もが二人はこのまま結婚するものだと思っていたらしい。

「でも律子さんは高校を卒業してすぐにね……亡くなってしまったの。律子さんは心臓が弱くてね…その頃の医学では治す事の出来ない重い病気だったのよ……。父さんはその時ひどく落ち込んでね。律子さんの御葬式の時も、同級生のみんなは父さんにどんな言葉をかけていいのか分からなかったわ……。父さん自身は必死でまわりに気を遣わせないようにしてたみたいだったけど…その姿が逆に痛々しくてね……」

その後、たまたま就職先が同じになった父さんと母さんは互いに惹かれ合って結婚する事になった。昔から仲の良い者同士だったから、お互いの事はよく知っている。だから、やっぱり父さんの心はまだ癒されていないという事を、母さんはその時も気付いていたらしい。

結婚をする時もした後も、もちろん父さんは母さんの事をとても大事にしてくれたみたいだし、まぁ、なんと言うか…その…愛してくれていたみたいなんだけど。それは僕自身が記憶している父さんと母さんの様子から見ても確実だと思う。確かに父さんは母さんを愛していたし、母さんは父さんを愛していた。二人は僕にもたくさんの愛情をくれた。

だけど……。
父さんの過去にそんな悲しい出来事があったなんて。そして、そこには母さんもいて……。二人はそれぞれに大きな気持ちを持ち続けていただなんて。

「父さんがね、本当に母さんの事を愛してくれてたっていうのは分かるのよ。時が経って、お前が生まれて。贅沢はできないけれど、それなりに幸せな家庭っていうのを築いてね。律子さんの事も実際、忘れていたと思うの。だけどやっぱり心のどこかには律子さんの存在があったのねぇ…うふふ。母さん、律子さんにはいつまで経っても勝てなかったみたい。やっぱり律子さんはすごい人なのよ」

母さんは泣いていた。
だけどそれは、ただ悲しいだけという泣き方とは少し違って見えた。なぜか嬉しいようにも見えたし、寂しいようにも、恥ずかしいようにも見えた。

当たり前だけど、僕は昔の父さんと母さんを知らない。律子さんの事も知らない。
だけど、僕にも少しだけ分かる気がした。
母さんは、本当に心から律子さんに憧れていたんだという事。
父さんは、律子さんを失った悲しみを必死で乗り越えようとしていたんだという事。
そんな父さんの気持ちを知りながら、母さんは父さんを愛したんだという事。
父さんと母さんの心のどこかには、いつも律子さんの存在があったという事。
そして、父さんと母さんは本当に愛し合っていたんだという事。

だからこそ母さんはあの時、父さんが最期に呼んだ『律子』さんの名前に応えたのかも知れない。母さんの気持ちを完全に理解する事が出来ない未熟な自分を、少し悔しく思った。

「お前ももう少し大人になれば分かる時がくるわよ。やっぱり母さんは父さんの事を愛してるからね、うふふ……そういう夫婦の愛情もあるって事。あ、だけど天国で父さんと律子さんが仲良くやってたら少し妬いちゃうかもね。まぁでも、母さんがあっちに逝った時、また昔みたいに3人で楽しく過ごせるかと思うと、死ぬ事もちょっとは恐くなくなるかな。あー、安心しなさい。私は孫の顔を見るまではちゃんと生きてるつもりだから。うふふ…」

冗談まじりで笑いながらそんな事を言う母さんは、やっぱりいつもの母さんだったけど、きっと強がってるんだと思った。父さんの事を「愛していた」じゃなくて「愛してる」と言ったその言葉が嬉しかった。

母さんが見ている写真の父さんはめずらしく笑った顔で……きっと今、父さんは本当にそんな顔で少し照れながら笑ってるに違いない。

母さんと結婚した父さんはやっぱり幸せな男だよ、と心の中で呟いてみた。

2003.08.24.

パラメータ。

『攻撃力・守備力・知力・素早さ・カッコ良さ・運』
以上6項目それぞれに、『60ポイント』を振り分ける。

例えばそんな設定をするゲームをやろうとした時、そのポイントの振り分け方には性格が出ますよね。まぁそれが格闘ゲームなのか、ロールプレイングゲームなのか、スポーツゲームなのかの違いによっても多少は変わってくるかとは思いますけど。

攻撃力:15 守備力:15 知力:10 素早さ:10 カッコ良さ:5 運:5
何となく堅実なタイプですなぁ。バランス重視って感じ。

攻撃力:30 守備力:20 知力:0 素早さ:10 カッコ良さ:0 運:0
格闘家タイプですなぁ。そういう人、嫌いじゃないですハイ。

攻撃力:60 守備力:0 知力:0 素早さ:0 カッコ良さ:0 運:0
こういう事をやる人。度胸はあると思いますが、きっと後で後悔する気もする。

攻撃力:10 守備力:40 知力:10 素早さ:0 カッコ良さ:0 運:0
何となく打たれ強そうです。忍耐力ありそう。

攻撃力:20 守備力:5 知力:0 素早さ:25 カッコ良さ:0 運:10
あ、いいとこ突くな〜コレ。ドラクエで言うと「改心の一撃」狙いっぽいな。

そんでもってこれ、私だったらこんな感じですかね。
攻撃力:10 守備力:15 知力:5 素早さ:5 カッコ良さ:20 運:5
何よりも『カッコ良さ』はゆずれないんですわ。カッコ良い事はいい事だ。
じゃぁ『カッコ良さ:60』とすればいいのに、他の項目にもちょこちょこポイントを振り分けているという所に、私の姑息な性格が滲み出てますが。そのわりに見た目にもウルサイという非常にイヤな奴ですな、私。

しかしながら、私が一番会ってみたい人はこんな人。

攻撃力:0 守備力:0 知力:0 素早さ:0 カッコ良さ:0 運:60

見てみたい。この人がどんな人なのか。
そして、私はこういう人とお友達になりたい。きっと楽しい人に違いない。

……いや、あくまでも自分はそうはなりたくないけど。

2003.08.14.

次回予告。

ついに…奴らがベールを脱ぐ……!
ドーン!!(←効果音)

「女将さん!二郎がっ!」
「何ぃ〜?二枚重ねのティッシュ!?」
「歌って踊ればハッピッピのピィ〜」

新たなる敵の正体……それは……!
ドドーン!!(←効果音)

「坂本くん。それ、石鹸じゃないよ…?」
「君の顔って…前から見ても後ろから見ても横顔っぽいね」
「壁と壁の隙間は約15センチしかないんスよね〜」

いよいよクライマックス!事態は急展開を迎える!
ドドドーン!!(←効果音)

「リサイクルペーパーのリサイクル法?」
「中国四千円」
「あ、そこ曲がってるね。いや、違う。もっと右上がりだよ」

あなたの目には何が映るのか……?
次週、『あ・チュルスイんたゆ乙・タレヴョ田クジュ』お楽しみに!!

2003.08.11.

ついてる人の話。

ちょいとそこの旦那、聞いて下さいよ。
この人はね、自分ひとりの力で生きていると思ってんですよ。影ながら私がそっと力添えしてやってる事にも気付かずにねぇ。
いや…まぁそう簡単に気付かれても、私としてはマズい事になるんですがね。私も一応こういう立場なもんでね。へっへっへ…。
しかし、ホント。この人は自分勝手で仕方なくてね。何かしら事を悪い方向へ運んでしまうクセがある。その度にいつもいつも私が助けてやってんですが、それもこの人は自分の運の良さだと勘違いしてやがる所がありまして。困ったもんですよ。全く私の事なんて気付いてもいやしない。鈍感と言うのか何と言うのかねぇ。
いずれは私もここから離れなきゃならんので、この人のこの性格だけでも修正してやりたいとは思ってるんですわ。それはまぁ私の役目としてね。
ところで、旦那。
私の姿がみえてるんですかぃ?はぁ、そうですか。それはそれは。
するってぇと、あれですか。私の同業の奴らの姿も?あ〜、やはり見えていらっしゃる。
しかしあれですな。旦那は私らみたいなもんと接する事にもだいぶ慣れていらっしゃるようですが、そういう能力をお持ちの方も大変ですな。いちいち反応するのも手間でしょうからねぇ。へっへっへ…。
いやいや、お時間をとらせちまったようで。話を聞いて頂いて、私もだいぶスッキリしましたわ。
あ〜失礼。まだ名乗ってもおりませんでしたな。
私はこの人の守護霊をしております箕吉って者です。江戸の時代には、ちぃっとは名の知れた刀鍛冶だったんですよ。
ほぉ…!旦那、霊媒師さんでいらっしゃったんですかぃ?どうりで…へっへっへ。
この人に憑いてからというもの、私も苦労しっぱなしですがね。旦那、またどこかでお会いできる事を楽しみにしてますよ。その時はもっと楽しい話が出来ると良いんですがねぇ。へっへっへ…。

2003.08.10.

メガネ学校。

転校してきた新しい学校では、なぜかみんなメガネをかけていた。
クラス全員がメガネ。担任の先生もメガネ。校長先生もメガネ。
その学校では、全員がメガネをかけていた。

「藤堂くんはどこから引っ越してきたのー?」
「うん…静岡から…」
「静岡の人達はメガネかけないのー?」
「え?メガネは……目が悪い人はかけてるけど…」
「ふーん。そうなんだ。じゃぁ藤堂くんはメガネかけないんだ」
「ぼくは別に目が悪いわけじゃないから…」
「俺も目が悪いわけじゃないけどね。でもメガネかけてるよ」
「そうそう。私も」
「う、うん…。別にそれでもいいと思うけど…」
「じゃぁさ、藤堂くんはどんなメガネが好きなのー?」
「あー、それ聞きたい聞きたい」
「どんなメガネが好きかって聞かれても……ぼくはあまりメガネに詳しくないから…」
「ふーん。そうなんだー」
「藤堂くんって、ちょっと変わってるね」
「ホント。メガネが好きじゃないなんて考えられないよ」
「え…、あ…、うん……」

……………

「母さん、ぼくにもメガネ買ってよぉ」
「何言ってるのよ。あんた別に目が悪くないじゃないの」
「だってクラスのみんな全員メガネかけてるんだもん!」
「そんなの関係ないじゃないの。メガネなんて必要ありません」
「メガネが流行ってるんだよぉ。このままじゃ…ぼく、友達できないよぉ…!」

結局、母さんはメガネを買ってくれた。
新しい学校で友達もできずに、ぼくがひとりぼっちになってしまったらかわいそうだと思ったのかも知れない。ぼくのワガママを聞いて、駅前のメガネ屋で子供用のメガネをひとつ買ってくれた。
「大事にしなさいよ」と母さんが言い、ぼくは「うん!」と応えた。母さんは「まったくもう、この子は」と苦笑いした。
その日の夜、ぼくはとても嬉しくて、鏡の前でずっとそのメガネをかけたり外したりしていた。これで新しい学校でも友達がたくさん出来ると思うとウキウキした。

……………

「あれー?藤堂くん、メガネ買ったのー?」
「うん!昨日、母さんに買ってもらったんだ!」
「へぇ〜。でも…それ旧型だよね」
「え…?」
「あー、ホントだー。旧型だー」
「旧型…って……何…?」
「旧型、知らないんだー藤堂くん」
「……うん」
「それに、そのメガネ。駅前のメガネ屋で買ったでしょー?」
「あ〜、あの店で買っちゃったのか〜。あの店のメガネはちょっとな〜。…なぁ?」
「う〜ん。ちょっとねぇ」
「………」

ぼくは何が何だかわけが分からなくて、わけが分からないのにすごく悔しくて、昨日の夜、バカみたいにウキウキしてた気分とか思い出したりして、母さんにワガママを言って買ってもらった事とか、そういういろいろを一瞬にして壊された気分になって、トイレへ入って1人で泣いた。

家に帰っても、その日の事は母さんには黙っていた。
その事を話すと、何となく母さんを悲しい気持ちにさせるんじゃないかと思ったし、あるいは、せっかく母さんが買ってくれたメガネなのにそれを悪く言われたという事を、ぼく自身が話したくなかったのかも知れない。

次の日から、ぼくはメガネをかけていくのをやめた。

「あら?あんた、今日はメガネかけていかないの?」
「うん。メガネは大事にしまっておく事にした。体育の時に壊れちゃったらイヤだから」

母さんは、ぼくの様子が何となく変だと気付いているようだった。だけど詳しく聞いてはこなかった。

ぼくはもうメガネをかけない。みんながメガネをかけているから、流行っているからと言って、目も悪くないのにメガネをかけるなんて、そんなのカッコ悪いじゃないか。と、無理矢理にでもそう思う事にした。

それから2ヶ月が経った。
父さんの仕事の関係で、ぼくはまた新しい学校へ転校する事になった。
結局、この学校では1人も友達はできなかったけど、今度の学校ではたくさんの友達が出来ると信じている。

新しい学校へ行ったら、まずはクラスのみんなに「メガネ学校」の事を面白おかしく話してやるんだ。きっとクラスのみんなは、そんなのバカげてると言いながら笑って聞いてくれるに違いないんだから。

2003.08.03.


← OLD     BACK     NEW →