2001年11月4日(日)晴れ
蠅帽子嶺(1037.3)越山(1129.3)

駐車場(9:20)→稜線取り付き(10:50)→蠅帽子嶺山頂(11:05〜12:40)→
蠅帽子峠(13:05)→越山(14:30)→国道(15:45)→駐車場(16:30)

蠅帽子峠道取り付きのある尾根

峠道途中の色付いた森
 この秋は、山歩きに出る日に限って天候が良くないことが多かった。しかし本日は良い天気になりそうだ。良い山歩きができそうな期待に胸を膨らませて向かった先は岐阜県と福井県境にある蠅帽子嶺。かつての官道這法師峠道の脇にあるピークである。
 うすずみ桜で有名な根尾村樽見を越えて根尾西谷の国道157号を進んでいく。能郷から更に温見峠に向かい大河原へ出るとわずかで右手の川原に広場がある。「官道這星峠道」と記された真新しい看板が入口に立っている。つい最近まではなかった看板だ。
 しかし「這星」とは洒落たつもりで付けたのだろうがいただけない当て字だ。「蠅帽子」及び「這法師」という表記には歴史的な意味合いやその名にまつわる話があるはずでもっとそういったことを大切にして欲しいと思う。
 広場に車を置き、渡渉地点の偵察に行く。這法師峠道の取り付きは根尾西谷川の流れを左岸に渡らなければならない。昨年もこの蠅帽子嶺に登ろうとここまで来たのだが流れが深く良い渡渉地点が見つからないまま諦めた。今年は雨も少なく流れは細そうだが念には念をで渡渉用に川釣りのウェーダーをもってきた。
 岸にでてみるとあら不思議、細い丸太で作られた簡単な橋が架けられていた。木が新しいので最近作られたものらしいがいったい誰が作ったのだろう。まあ、とにかくこれで渡渉に関する心配はなくなった。早速車に戻って準備をし9時20分出発。
 流れを渡ってわずかの所にお地蔵様がある。お地蔵様の裏が尾根の末端になっていて、恐らくこの辺りが取り付きだろうとそこから尾根を登っていく。低木がやや茂っているがそんなにやっかいではない。しばらく歩いていくとしっかりした踏み跡にでる。ふと見ると左手から登ってくるしっかりした踏み跡がある。どうやら本当の峠道の取り付きは別にあったらしい。
 踏み跡は尾根筋をジグザグに登っていく。時折倒木があったり道が細くなったりするが苦にすることもなく進んでいく。秋色に色付いた広葉樹に包まれ気持ちが良い。
 やがて道は緩やかになり908mピークを左手側から巻くように進んでいく。この辺り道は細くなっていてかつての峠道だったのかどうか怪しい。歴史書によると、幕末に水戸の天狗党が雪の中を、幾門かの大砲を抱えてここを越えていったらしい。しかしこんな山腹をどうやって進んでいったのか。
 時折樹間から能郷白山が見える。美しい山だ。敗走する天狗党の一行は能郷白山を見て美しいと思うような余裕はなかっただろうな。最もここを越えていた時間帯は恐らく夜なので能郷白山の姿も見えなかったとは思うが。
 道は左手山腹を進んでいく。進むに従って巨木が目立つようになり奥深くなっていることを感じさせる。943mピーク手前の鞍部に出て、踏み跡は右手の笹が被さっている中へ続いている。しかし、その様子がどうも怪しげだったので、そのままピークへ向かって尾根上を進んでいった。
 尾根上はピークが近づくに従って若干灌木が出て笹も濃くなる。何だかちょっと不安になる。それを煽るように雲行きも怪しくなり少しパラパラとくる。ピークを過ぎて若干下っていくとピークの右側を巻いてきている道に出合った。こちらから見るとしっかりした踏み跡に見える。素直に踏み跡を辿るべきだったかもしれない。
 道はしばらく痩せた尾根上を進みやがて尾根が上るようになるとその左手を行くようになる。わずかで道は緩やかに左にカーブする。カーブの頂点にあたるところに目印が沢山してある。ここから急斜面をはい上がって再び尾根上に出る。薄い踏み跡が上に向かっており辿ると県境稜線上に出る。

蠅帽子嶺三角点

山頂より能郷白山
 稜線上にも薄い踏み跡がついており右折して辿っていく。先ほど小雨をぱらつかせた雲はいつの間にかどこかへ消えいい天気になってきた。しばらく行くと樹間から冠雪した加賀の白山の美しい姿が見える。すでにそんな季節なのだ。そういえば稜線を吹くやや強い風にどこやら冬の気配を感じないでもない。
 途中、下山してくる中年のご夫婦に出合った。きっと静かに秋の山を満喫しようと登ってみえたのだろう。他にここを訪れている人の気配はない。
 正面にピークが見えそれが蠅帽子嶺らしい。更に進むと若干踏み跡がわかりにくくなるがとにかく稜線上に近いところを歩いく。やや登って薄い笹を分けると切り開かれた三角点ピークに着く。
 11時5分到着。ピークは南側が切り開かれ左手の大白木山、高屋山から西に鎮座する能郷白山までが見渡せる。山間の向こうにきらめくものはどうやら伊勢湾のようだ。東側には灌木越しに西ノ水、その向こうに屏風山が見える。生憎北側は樹木に遮られ展望が利かないが十分だ。天気は上々で日差しが暖かい。風は強く吹いているものの北側の樹木に遮られ三角点までは吹いてこない。
 のんびりと1時間半ほど過ごして稜線上を戻り蠅帽子峠へ向かう。薄い踏み跡は先ほど稜線に辿り着いた地点を越えて更に先に進む。この踏み跡の先に峠はあるはずだ。
 途中、中年の単独登山者に会う。「ここも道なき道ですね」とすれ違いざまに言われた。藪といったものはないものの確かに踏み跡は薄い。
 踏み跡はやがて稜線沿いに右手にカーブして続いている。このカーブの頂点の所に目立つ目印が幾つかしてある。どうやら峠にはここから下っていくらしい。
 急斜面を下ってわずかで蠅帽子峠に着く。峠の道はさすがに幅広いが岐阜県側は笹の中に埋もれかけており、福井県側は少し行くと倒木に遮られている。使われないこの道はやがて歴史とともに自然の中に埋没していくのだろう。峠よりわずかに岐阜県よりに登り口にあったようなお地蔵様がある。幾人の旅人がこのお地蔵様に手を合わせたことか。
 峠から西へ延びる県境稜線を見ると薄い踏み跡がある。ひょっとしたら県境稜線を辿って西にある越山まで行けるのではないかと思っていたがその踏み跡を見てそれは確信に近くなった。このまま帰るのも物足りなく思っていたところでもありちょっとその踏み跡を辿ってみることにした。もし越山まで辿り着けたならそこから山を下ればいい。どうしても手に負えそうになければ戻ればいい。

蠅帽子峠のお地蔵様

越山三角点
 踏み跡は獣道ほどの薄さでほぼ稜線上に続いている。所々消えてしまっているが県境稜線を辿ると再び現れる。ひょっとしたらこれは本当に獣道かもしれず、マタギの道なのかもしれない。しかし、取り敢えずの藪は薄く歩くにさほど困難はなさそうだ。しかし、この先はどうなのか分からない。日も傾きかけているし先に進むにつれそれらがプレッシャーをかけてくる。戻るべきではないか、そう思ってみるが何故か足は一向に戻ろうとはしない。
 稜線上でやや後方を振り返ると青空の下に真白く冠雪した白山が見える。美しい。しかし今は立ち止まってゆっくり見ているだけの余裕もない。
 稜線が痩せてくるとやや灌木や笹が濃くなる。それらを避け稜線よりわずかに下ったところを辿っていく。
 稜線はそれほど起伏はない。二度ほどやや急登があるが苦にするほどでもない。
 西に向かっているので陽が逆光となって差してくる。そのため進行方向がとても見づらい。ともすると進むべき方向が分からなくなり不安を煽る。
 越山に近づくにつれ笹が濃くなる。しかし、稜線を少しはずすと笹が薄くなり歩きやすい。思ったほど藪はなさそうだ。
 稜線の幅が広くなってきてもうそろそろ越山のピークに近づいたのではないかと思ったところで灌木の枝を鉈で払ったような跡があった。人の歩いた確実な痕跡を確認できホッとする。更に進んで行くと笹の中に沼が現れる。そこら辺りから踏み跡が分からなくなったが前方に見えるちょっと小高くなった、広葉樹が立つ辺りがきっと越山山頂だろうと笹を漕いでいく。途中、笹が灌木にかわり、高低差のあまりない平らなところへ出る。どちらへ向かったものか分からないが取り敢えず大きな広葉樹のもとへ出てみようと進んでいくとその広葉樹の前辺りが少しかられておりそこに静かに三角点があった。傍らを見ると「越山」と書かれたパネルが木にかけてある。14時30分着。不安とプレッシャーの中で辿り着いたので喜びもひとしおだ。思わず「バンザーイ!」と叫んでいた。
 山頂は森の中といった感じで見晴らしは何もない。でも、時間があればゆっくり過ごして気持ちがいいだろう。しかし、今はあまり時間の余裕もないし精神的な余裕もない。実は山頂に着くわずか前に左目のコンタクトレンズを落としてしまったのだ。山の中なのですぐ探すのを諦めたが、暗くなると右目だけでは視力が効かなくなるおそれがあるので早く下山しなければならない。せっかくの山頂もほんのわずかの休憩でさよならすることとなった。

越山山頂の巨木

越山西尾根より高屋山
 下山は所々にある目印を見逃さないように慎重に辿りながら歩いていく。特に山頂部は平坦なので道を見失うとどこへ行ってしまうか分からないので見にくくなった視力で冷や冷やしながら辿っていった。
 山頂部を下ると後はほぼ痩せ尾根上に踏み跡が続いており道を見失う不安は薄れる。しかし落ち葉に埋もれた急斜面は滑りやすく何度か転倒することとなった。
 尾根上は藪もほとんどなく滑りやすいこと以外はそれほど困難なことはない。途中で見た陽の落ちた谷中のブナ林がとても幽玄に見えて印象的だった。
 尾根の下部に来ると杉林となる。その一番右側の辺りを通って谷の川原に下り後は適当に草むらを分けて根尾西谷の本流に出る。本流と言っても本日は流れが細く簡単に渡渉して右岸の国道に上がる。あとは車を置いた広場までの以外と距離のある行程をトボトボと歩いていった。
 道中、なんで今日のような一歩間違えば大変危険のある山歩きをしてしまうのか考えていた。しかし、答えは見つからないまま、いつの間にか思いは次の山歩きに移っていた。