2001年8月15日(水)晴れ
イブネ(1160)

朝明ヒュッテバス停前駐車場(7:00)→根の平峠(7:55)→クラシ谷出合(8:30)→
稜線(9:40)→イブネ(10:05〜12:25)→佐目峠(12:40)→
杉峠(13:10)→コクイ谷出合(14:00)→根の平峠(14:45)→駐車場(15:25)

根の平峠付近よりイブネ

イブネ北端(奥の山は釈迦ヶ岳)
 本当は別の山に行こうと思っていたのだが、前日に某アウトドアショップを覗いていたら書籍のコーナーに『鈴鹿の山ハイキング』という自費出版の本を見つけた。その中にイブネの案内があり読んでいる内に行きたくなった。
 イブネへは二度目の挑戦である。この冬に一度南東の尾根から挑戦したのだが、急斜面のラッセルに悪戦苦闘してようやく1125mピークには達したもののそこから引き返した。今回はその雪辱戦というわけではないがイブネのピークはぜひ訪れてたい。
 7時、車が数台停まっているだけでまだガランとした朝明ヒュッテバス停前の駐車場を出発。盆休みを利用したキャンパー達の朝仕度を横目にしながら伊勢谷小屋の脇の道から伊勢谷へと入っていく。
 伊勢谷は相変わらず広々とした谷で、冬との違いは雪の代わりに草木が茂っていることぐらい。広い道を流れを渡りながら進んでいく。
 まだ朝早いというのにすでにかなり汗ばんでいる。背中から朝陽がまともに当たっているせいだろうか。先が思いやられるなと思いながら歩いていく。
 根の平峠が近くなると道が細くなりやがて谷の流れからそれていく。笹の中の溝状になった道をしばらく歩いて峠に着く。
 根の平峠は冬に訪れたときは結構開放的な感じがしたが今は樹木の葉が生い茂り閉じられてドーム状になっている。ゆったりと休憩できそうな雰囲気だ。しかし、今はそんなに休んでもいられない。
 今回は、クラシ谷から入りクラシを経てイブネに至るコースを行こうと思っているので峠からタケ谷を下って愛知川に向かう。途中笹が覆い被さっているところがあって嫌だなと思ったがそんなところはそこだけで後は快調に歩ける。
 ほどなく愛知川に出る。流れの中の適当な石を拾って対岸へ渡り右へと進んでいく。しばらく歩いていくと谷に出合う。木に「クラシ」と赤ペンキで書いてありそこを入っていく。
 クラシ谷は、想像していたよりも広い。所々に印がしてありそれを辿って歩いていく。小滝も幾つかあるが支障なく越していける。
 まだ新しい鹿の足跡が人の踏み跡を辿るように続いている。鹿も人と同じようなところを歩くんだなと思ったが、実際には逆で鹿が通るような所を人も歩くのかもしれない。両方かもしれないが、クラシ谷を歩いている間はほとんど鹿の足跡を辿るという形になった。
 所々に炭焼窯跡がある谷は上部に行くと伏流となり幅も狭くなる。斜度がきつくなったなあと思うとガレ場のような所を登る。更に進むと谷が二股になりここで上部を仰ぐと左側の谷に赤テープの印が見える。それに従い進む。
 全く踏み跡のない土の急斜面を慎重に登ると岩場がありロープがしてある。普段はこういったロープをあまり頼る方ではないがここはこのロープがなければとても越して行けそうにない。滑って落ちたら骨折ぐらいではすまないかもしれない。ロープを引っ張って大丈夫なことを確かめ少ない足場を慎重に選びながらそこを越して再び細い谷芯へ下りる。
 テープの印は谷芯を続いているが途中から右側の尾根に逃げる。急な尾根に出ると時折シャクナゲの木があったりして閉口するが上部に至ると灌木の間にわずかながら踏み跡がありそれを辿る。しばらくして二次林の稜線上に出たがどこに出たのか分からない。
 地図とコンパスを出して木の間から見える風景と比べてみるとどうやらクラシ谷の右岸の尾根に出たようだ。本当はクラシ谷の左岸、というかいわゆる「クラシ」と呼ばれる所に出たかったのだが反対側に出てしまったようだ。おそらく最後に登る谷を間違えたのだろう。
 気を取り直して稜線を右に進んでいく。やがて「イブネ北端」と書かれた札が掛かっている切り開きに出る。右手下方に笹原が見えその辺りが「クラシ」らしいがわざわざ立ち寄ることもないだろうと左手の方に向かう。
 足下は膝頭ほどの低い笹になっている。視界を遮るほど笹が生い茂っているのかと思っていたのだがこれなら問題ない。しかし踏み跡は薄く木々にしてあるテープの印を頼りに進んでいく。

イブネ山頂付近

走り去る鹿
 やがて樹林を抜け笹原の大平原に出る。低い笹の中、もうどこを歩いても良いという感じだ。イブネ山頂らしきところにはパネルがしてあるが、どこが山頂といってもおかしくない平原だ。実際、山頂を示すパネルも2カ所に見つけた。三角点でもあれば別だが、まあ、この平原に来られれば山頂などどちらでも良い。気持ちのいい平原だ。
 一応最初に見つけたパネルの所を到着として10時5分着。やっと念願のイブネにやってきた。
 パネルをよく見ると人の名前が書いてある。「美津田司」と書いてあるその名は二日前に登った川上岳で見かけたパネルにも記されていた。よほど縁がありそうだ。いったいどんな方なのだろう。
 下は笹ばかりで腰を下ろすところがなかなかない。付近をウロウロしていると南側の平原の縁近くに笹の少ないところがある。そこに腰を落ち着けようと向かうとすぐ目の前の笹の下からぬっと起きあがるものがある。鹿だ。予期していなかったので吃驚して「わあっ!」と叫んでしまった。相手も吃驚したようで一瞬こっちをみたが次の瞬間には風のように向こうへと走り去っていた。手に持ったデジカメで慌てて撮影したが小さくかけ去る姿しか映せなかった。日頃から心得があればこんな時慌てず写すことができるんだろうか。
 腰を下ろしてまずはビールで乾杯。目の前には雨乞岳が鎮座し東に目を向けると御在所岳、国見岳、鎌ガ岳が見える。吹く風は涼しい。今日は登ってきて正解だった。気分良く仰向けになって目を閉じる。程良い眠気が来てウトウトする。しばらくしてパッと目を開けると空一面にトンボが舞っている。わあっと回りを見るとどこから来たのだろうそこら中トンボだらけだ。すごい。秋になるとこいつらが里に下りていくのか。秋を告げるトンボは今ここでその登場の時を待っている。
 帰りは、杉峠から上水晶谷を経て伊勢谷へと向かう道をとった。この道を歩いたのも正解だった。
 イブネから下ったところに佐目峠がある。そこから少し先にある二次林の森はどこまでも続くかのようなのどかさで、歩いていておおらかな気分にさせてくれる。そこからわずかに杉峠よりに進むと今度はパッと開けた平に出る。所々に木が立っておりどこか計画されて作られた公園のような広場だ。涼しげな木陰もあり、目の前にはボリュームのある雨乞岳も眺められ休憩するには最高の所だ。ここで過ごすためだけに来ても価値がありそうなそんな場所だ。鈴鹿の中でも特に好きになりそうだ。何時かまたこちらに来る機会があれば今度は必ずここで大休止しようと決めて山を下りていった。

イブネ山頂平原の縁

杉峠より少し登った所の広場