毘沙門岳(1385.5)


2007年1月28日 日曜日 (曇り時々雪、後晴れ) 単独 山スキー


8:10 イトシロシャーロットタウン リフト終点

9:40 稜線

10:50 北尾根鞍部

12:15〜13:30 毘沙門岳山頂

15:50 リフト終点


リフト終点から切り開かれた尾根の雪原を歩き出す
稜線上で振り返れば樹氷がわずかな光に輝いてる
紆余曲折を経てやっとここまで到着
北斜面途中にぶら下がっていた不気味な人形「訓練目標」
天候がよくなってきた毘沙門岳山頂
山頂から西山を望む。いつかあそこまでスキーで行きたいなあ
鞍部より毘沙門岳を仰ぎ見る。晴れて美しく輝いていた
途中の素敵な樹林をわずかにツリーラン。十数秒のいい気分
谷筋のなだらかな植林帯を滑っていく。これまた気持ちいい
リフト終点では姿を見せた石徹白の山々が出迎えてくれた
先週、大日ヶ岳から毘沙門岳を見ながらSHIGEKIさんが言った。
「毘沙門岳にはイトシロシャーロットタウンから行くのがいいようでっせ」
「じゃあ、来週行ってきます」
「来週行きまんのか?」
「聞いた限りは行かなければ…、行ってきます」
とは言ったものの、天気予報の悪さと雪量に不安があり迷って他の山を物色していた。
週末が近づくと予報が良い方向に変わっていった。また金曜日には降雪もあったようでイ
トシロシャーロットタウンの積雪情報も+10となった。+10がどれ程のものか分からないがこれは行っても良いんじゃないかと思えた。いざとなれば目的地を切り替えるつもりで出掛けた。

どうせリフトは8時からだし、とはなからリフト利用を前提でのんびり準備を始めた。雪が少なかったら鷲ガ岳へ登りに行こうと思っていたが1000円払って駐車場に入ってしまってはもう腹をくくるしかない。上空を見ると雲が低く稜線上部はみえない。予報では昼から晴れ間があるようだが当てにはならない。が、それも覚悟して来ているから中止にする気もない。

リフトが動き出すとほぼ同時にリフトに乗る。乗ってから気付いた。地形図を車に忘れている。今までの反省をふまえて今日は完璧に準備できたと思ったのにこれだ。情けない。どうする。とりに戻るか。しかし、リフト代500円を惜しんで戻るのはやめにした。さっきまでさんざん眺めていた地形図だ。なんとなく記憶に残っている。それほど複雑なルートではなかったはずだから大丈夫だろう。しかし、これが後で尾を引く。

リフト終点から奥を見ると広く切り開かれた尾根が続いている。そこに一面雪が積もっている。傾斜もほぼなくてスキーやボードの為に開かれた感じではない。いったい何のために開かれたのだろうか。その中をまず奥へ進んでいく。

トレースはない。あったのかもしれないが新雪に埋まってしまっている。緩やかな傾斜の雪原を進んでいくとやがて切り開きが終わり左手尾根筋は自然林、右手谷筋は植林帯になる。記憶では地形図の点線路はこの辺りで谷に下りていたはずである。

谷に下りると植林が続いて緩やかな上りとなっている。地形図通りだ。植林が気になるが進むのには邪魔にならない。左手の尾根は自然林で雰囲気としてはそちらの方がよさそうな感じだ。あっちにすればよかったかなとも思うが今更尾根に登っていく気にもならない。

初め進みやすかった谷も奥に進んで谷が詰まってくるとどこをどういう風に進んでいけばいいのか迷い、あっちへ行ったりこっちへ登ったりと我ながら無駄が多くなってきた。それにつれて疲労感も出てきた。何時終わるのかなあと思いながら尚も谷は緩やかに続く。

谷はゆるく左に曲がっていく。相変わらず植林が続く。ふと右手を見ると稜線が近づいているようだ。そろそろかなと左岸の小尾根に取り付いて急登していく。

スキー板を履いての急登は大変だ。しかし、これも練習かあと思いそのまま登りハアハア息をついて稜線に出る。

稜線手前で植林は終わり自然林となったが稜線に出ると反対側の山腹は伐採されており檜の幼木が植林されている。従って見晴らしは良い。しかし、ガスが覆っていてみえるものはない。晴れていればきっと毘沙門岳の姿が目の前に見えるのだろう。

ここから左手に稜線上を進んでいけば自然と毘沙門岳と白鳥高原を結ぶ尾根に出るはずである。稜線の先はガスっていて分からないがと大丈夫だろう。

稜線を進んでいくと、やがて谷の最深部から上がってきた辺りに出る。本当はこの辺りに出たかったのだがちょっと早まったか。谷側を見るとなだらかな斜面に植林がされている。結局こ
こまで植林なのだ。

ここを過ぎると目の前は緩やかな上りになっている。
右手を見ると細い尾根筋が続いている。その先ははガスに隠れているが確か記憶では稜線は一本に繋がっていたはずだ。その記憶を基に右手の尾根筋に乗っていく。一抹の不安はあったが歩きやすい尾根なので大丈夫だろうと思っていた。が、この尾根はすぐに切れた。不安が的中だ。先ほどの緩やかな上りが正解だったようだ。地形図を持って来なかったことを思いっきり悔やんだ一瞬だった。

ガッカリして元に戻り緩やかな斜面を登っていく。この斜面の樹林はなかなかよく滑ったら気持ちよさそうだ。

斜面を登り終えるとそこは辿ってきた谷の右岸尾根への分岐点だった。ふとそちら方向をみると登山道の目印らしきものが…。やはりこの尾根が歩きやすいのだ。帰りはこちらから下っていこう。

分岐点を過ぎて続く尾根を進んでいく。雪はスキーで進んでいける程度には積もっている。左手のガスの向こうからはウィングヒルズスキー場のものらしい音楽やアナウンスが聞こえてくる。静かな山歩きとはいかない。しかし、ガスの中で迷ったときには目標となるかもしれないので文句も言えない。

アップダウンを繰り返し稜線が広くなるとガスの向こうにぼんやりと白鳥高原からの尾根が見え始めた。やれやれやっとここまで来た、と振り返ると少し光が差した空を背に樹氷が美しい。苦労してこのルートを来た甲斐があった。

檜の幼木をかき分けるように斜面を登って白鳥高原からの尾根上に乗る。そこからわずかに進み少し滑り降りると案内板の立つ鞍部だ。やれやれ、ここまでくれば一安心。後は昨年の経験があるから大丈夫…、と毘沙門岳の北斜面を仰ぎ見て愕然とする。昨年、一面が真っ白だった斜面が青々としているではないか。笹だ、笹がまだ出ているのだ。これでは、この斜面を滑降するどころか登っていくことさえできない。どうする…。ここまでで思ったより時間が掛かったし引き返すか。板をデポしてワカンで登っていくか。それとも…。

結局スキーのまま藪の中の雪を拾って登っていくことにした。笹が出ているとはいえ雪はある。笹の薄いところをつないでいけば何とかなるだろう。

登り始めたものの急斜面での方向転換に苦労する。それに登りやすい方向に藪が開けているような所を見つけるのがなかなかやっかいだった。方向転換するたびにため息が出る。

斜面の途中で不思議な物体に出会う。下から見たときも大きな布が木にぶら下がっているのがみえたがその下へいくとそこには人形がまるで首吊りでもしているようにぶら下がっていた。その胸には「訓練目標」と書かれていた。なんの訓練目標か知らないが暗がりでこれを見たら気絶しそうだ。

「訓練目標」を後にして更に急斜面を進むが遅々として進まない。方向転換もままならない。その時ふと洞吹さんの金言が頭に浮かんだ。
「スキー背負って足で登ったほうが楽なんじゃないのですか。」

その通りだ。無理をしないでここはお言葉に従ってスキーを脱ごう。そしてワカンに履き替え急斜面にのぞむ。が、これまたなかなか進まない。パウダーにうまくラッセルができていかない。履き替えてよかったのかどうかわからなくなったままとにかく進んでいく。しかし、いくら進まなくても少しずつは前進していてやがて斜面は緩やかになり稜線上に出る。やれやれ。ここからは緩やかな稜線上を進んでいけば山頂だ。

稜線上は沈むワカンより明らかにスキーの方が有利だ。また履き替えて稜線上を進んでいく。

樹木の薄かった稜線はやがて樹林帯となりわずかで山頂に至る。この頃からガスが晴れだしやがて青空も覗くようになってきた。

さあ、休憩だあ。しかし、時間を見ると12時を過ぎている。あまりゆっくりもしていられない。あわてて最近買ったスコップで簡単なテーブルとイスを作りそこにいろいろ広げて大休止。ああなんだか良い感じ。ここまで来てよかったあ。ビールが美味しい。

休憩も終わりに近づいた頃、登山の団体さんが登ってきた。名古屋からやってきたとの事。スキーができて羨ましいですねと言われた。それほどうまくないのでちょっと照れくさかった。

賑やかになった山頂を後にしてシールを剥がし稜線上を滑り降りていく。天候はよくなり大日ヶ岳や石徹白の山々も見え始める。まるで苦労して登った事への褒美のようだ。

稜線からそのまま登山道に入って下部でスキーをはずし担いで数十メートル下り鞍部に下りる。昨年、ショートスキーで気持ちよくシュプールを描いた北斜面は滑れなくて残念。ここを滑るのが一番楽しみだったのに。

後は尾根の分岐点まで来た道をシール歩行で戻る。稜線上からは朝見られなかった毘沙門岳の堂々たる姿を見ることができた。

尾根の分岐点では、滑りたいなあと思っていた斜面を、樹林を縫って滑る。わずか十数秒の滑降だったが良い感じだった。分岐点まで登り返して朝辿った谷の右岸尾根を下りていこうとそちらに向かう。ここからはシールを剥がして雪上を滑っていく。

右岸尾根を辿っていくつもりだったが、樹林の良さに誘われて小尾根に間違って入り込んでしまった。ここでも地形図があればよかったのだが…。

間違いではあったが樹林を縫って滑っていくのは気持ちよかった。やがて小尾根は谷筋におりそこからは朝歩いた植林の中を滑っていく。

谷の上部は平坦とはいかなく滑っては少し上り、登っては少し滑りの繰り返し。下部に至ると緩やかながら下りが長く続くようになり植林を避けながら滑るのがとても楽しい。狭いところでも朝のトレースを辿って直滑降ができ、コースターに乗っているようでそれも楽しい。毘沙門岳で不完全燃焼だったのがここで補えた。

リフト終点では眼前に野伏ヶ岳が姿を見せて出迎えてくれた。なんだかんだと終わってみれば楽しい一日だった。イトシロシャーロットタウンのセンターハウスにある風呂で汚れと疲れを落とし帰路に着いた。しかしそこには渋滞が待っていた…。