短編小説のページ
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| 権座池は周囲をミカン山に囲まれた村のはずれにあった。村のものは何時からこの池を権座池と呼び始めたのか解らず誰にも通じる呼び名としてそう呼んでいた。 「あんりゃぁ?」 「どうしたぃ? 勇作さん?」 「あれ、ほれ、あれだがな! 今、権座池の方に何か落ちたようだぞぃ」 「勇作さん、見に行こう」 権座池まではさほど遠くはないが、この暑い時節に歩くのは辛かったので二人は源太の軽トラで行った。池に近づくと何やら光る物体が見えた。 「何じゃろう?」源太が少々不安そうに言うた。 えらい元気やなぁと思いながら源太は後についた。 権座池のちょうど入ると膝下くらいの浅い水面にキラキラ光るお碗のような物が浮いていた。勇作がその中に入ろうとするので、源太は心配で叫んだ。 「ちょっと待てやぁ、勇作!」 源太が中を覗くと勇作がご機嫌で中のソファに座っていた。 「変な物やなぁ。」 それはお碗のような形をしたまるでモデルハウスの一室のように家具やら電化製品を置いてある結構大きな部屋のような物やった。 「きっと最新式のモデルルームやなぁ、これは。源太も入れやぁ」 恐々だったが、あまり意気地なしと思われるのもしゃくやで、思い切って源太も入ってみた。 「おっ、なかなか、ええクッションやなぁ、家にもこんなん欲しいのぉ」 源太が「むやみに触らんほうがええぞ」と言う間もなく勇作が触れてしもうた。 グギーーーーーン ウィーーーーーン
「わぁーーーー」
ポチャーン。 「なぁ、なんかさっきから音せんかぁ?」源太が言うた。 二人は濡れた足をふきながら周囲を見回した。別になんも変わった事はなかった。 池の近くの小道に停めておいた軽トラに戻ろうと二人は立ち上がった。 「あらへん・・・」 源太の止めるのも聞かず勇作はさっきのお碗の中に入っていった。 「えーい、このソファはトラックないで無理やなぁ、なら、この洒落た丸テーブルだけでも持って帰るぞぉ。」 「あんたら、そこで何しとんのやなぁ?」 「いやぁ、ちょっと変わった物があったんでなぁ、調べとったんやわ」 「わし、別に変わった格好してへんがなぁ、ここらじゃみんなこんな恰好やで、あんたらこそ変わった格好しとるがな。あんたら、殿さんとこの新しい家来衆かいのぉ?」 殿さん!?家来!? 二人はこの爺さんいかれとんのやわと思った。
村のはずれまでやっと歩いてきた時・・・二人の目に入ったのは映画で見るような小さいがまぎれもなくそれは「城」だった。しかも、今、二人が立っている先には、ちょんまげ姿の侍が立っていた。 二人はこれは映画じゃないがな、なんか変やがなと怖くなってその場から逃げた。権座池に戻るしかないなぁ。あんな変な物に入ったんが間違いやったなぁ、ん? ここで源太の頭にある事がひらめいた。 「勇作や、こないだTVで見た映画でな、タイムマシンというのをやっとったんやな、もしかすると、あの変なお碗そうと違うかぁ?」
勇作は最初に入った時に偶然触れたスイッチをもう一度触ってみた。
お碗が喋った!! 二人は仰天したが、これで帰れると思うとホッとした。 ポチャーン。 「ただいまのポチャーンで貴方様方がこのタイムマシンでこの世界においでになってから5ポチャーンの時が流れております。お客様のお乗りになった時代では、5かける事のポチャーンの年数がたっております。それでもお帰りになられますね?」 「なんやて?」 「つまり、このタイムマシンをお使いになると500年も一瞬って事です。その感覚を忘れていただくといけないが為のポチャーンでしたが、どうもこちらの機械設定のミスでお客様への説明が行き届かなかったようです」 もう、わからん! わからんけど怖いでもう帰りたいよーと二人は思った。 グギーーーーーン ウィーーーーーン
水がない・・・池がない・・・そこは巨大なドームのような室内だった。二人の前を知的進化生命体グールがふわふわと飛んでいった。
「ええか、あれは500年昔に生存しておった人間という愚かな生命体じゃ。愚かでもあの者らにもうちっと熟慮があれば、あのような事にはならんだとは思わんか? 世はまさに淘汰の繰り返しじゃ。まぁ、あの気の毒な者達は落ち着いたら元の世界に戻してやるがのぉ」 助手は教授のこの気晴らしに近い悪戯癖をやれやれと思っていた。ちょうど800年前にも同じ事があったのだ。 今回の犠牲者には最新の記憶喪失誘発剤を与えてから帰そう。もう、あんな気の毒な様は見たくないからな。助手は教授には内緒にしとこうと思った。 「さて、レポートを仕上げないとまた教授にお目玉をくらうな」 「タイムマシンか・・・あれは確か6ポチャーン前の時代にとある作家が空想の産物として生み出した言葉だったかな・・・まっ、これはさして重要項目でないから削除だな」
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| 「おばんです」 何時ものトレードマークのハンティング帽をかぶった安どんが入ってきた。 「やぁやぁ、 今晩は結構蒸しますなぁ」源さんが安どんに声をかけた。 「そうですなぁ、今年の夏も暑くなりそうですなぁ。この時期、わしらは元気にしとらんとほんまいけまへんなぁ」 安どんは帽子をぬぐとそう答えた。 「さぁさぁ、これで皆さん大体お揃いになりましたな。そろそろ始めたいと思うんじゃが、まだ来とらん方みえますかいのぉ?」長老の万さんが皆に言った。 「長老さん! 銀ちゃんがまだ来とらんぞえ?」松どんが言うた。 「何をですかいのぉ? 長老どん?」 「はぁ〜〜・・・・」 長老どんは深くため息を一つ吐くと続けた。 「万さんやぁ、ここは一つ皆にもう一度昨夜の銀さんの災難について話してやったらどうじゃろなぁ?」
源さんが言うた。
「そうじゃ、そうじゃ、安どんの言うとおりじゃ」源さんが答えた。 「長老どん! で・・・ 今回のこの災難もまたあの化け物の仕業かいのぉ?」一番年少の 辰やんが聞いた。
「嘆いて怯えているばっかでもいかんぞなぁ」長老どんが言うた。 「まぁまぁ、皆の衆! ここは知恵を皆でしぼって対策をたてようぞな」 色々意見が出そろったところで、源さんがまとめ役として皆にこう言うた。 「夜の外出は必ず2人以上で出かける事! 特におなご衆や子供衆には特別気をつけてやる事! 皆もよう知っているようにワシらは夜型の生活じゃ。腹もすかせておる。辰やんは若いであの1丁目でようふんばっておるのぉ。確かにあの食器棚の裏は魅力がある住処じゃからのぉ。 じゃが、本当に気をつけるのじゃぞ!あのあたりはあの化け物も大好きみたいやからのぉ」 「それと! もう一つ大事な事じゃ!銀ちゃんの女房のたまちゃんとその赤子の行く末を皆で見守って欲しいのじゃ。先月災難におうた鉄どんの妹のお染ちゃんはやっと今月になって少し元気になったところじゃ。身内をあんな殺されかたで亡くしたらもうそれは辛い事じゃからのぉ。お染どんは今はワシのところにおるのじゃが、最初は昼間でもよう出かけやんとなぁ、恐がって恐がってどうしようもなかったのぉ。やっと今月からまた学校にも通えるようになったところじゃ」 辰やんが大きな声で言うた。「源さんやぁ、お染どんもいるなら食料も余分にいるじゃろう。 ワシとこは一番食料もふんだんにあるとこやで、何時でも来てくれやぁ。ちょっと危ない場所ではあるがのぉ」 「おお、おお、すまんのぉ。ありがたい事じゃ。その時はまた世話になるかいのぉ」源さんは目に涙を浮かべて言うた。
安どんがちょっと早めに帰らんと家で子供が腹をすかせているからと皆に挨拶をして帰ろうとした時だった・・・。
毛むくじゃらの大きな黒と銀色の縞模様の巨体が安どんの後ろに現れた!! 「あーーーーー!!!!!!!」 皆が叫んだその時、哀れにも安どんはあの化け物の手にかかって押しつぶされた。必死に逃げようとする安どんの手足をもて遊ぶように引っかけては弾いたり転がしたりと・・・それはもう恐ろしい所業であった。
長老どんの指図でとりあえず2丁目に逃げた皆はTVの裏からそっと安どんの災難を見ているだけしかできんだ。皆、泣いておった。 「あーー」 空をつんざくような大きな声がした。 「もう! 可哀相にまたこんな殺生してぇー」 巨人は安さんを白い巨大な紙のようなもので包むと4丁目に捨てた。 こうして、この夜の寄り合いは最悪の結果となって終わった。 「ここの街も昔は住み良い所じゃったのになぁ。あの夢ちゃんとか言うておったなぁ、あの巨人がのぉ、あの化け物さえここに住みつかなきゃワシらの生活も平穏無事だったのにのぉ」 「長老どん、ワシら・・・世間じゃぁ(ゴキブリ)とか(アブラムシ)とか呼ばれているそうじゃのぉ。どう呼ばれてもかまわんが、ワシらにも命ってものがあるんじゃで、何とか平穏な暮らしを取り戻したいのぉ」 「まぁまぁ、源さん! それでもなぁ、この街はええほうだという話も聞くぞい。何でも隣街ではのぉ、あの巨人とよう似た化け物がのぉ、煙幕のようななにか忍術を使ってのぉ、毒をばらまいてはワシらの仲間を殺しておると聞くからのぉ」 「そうでんなぁ、まだこの街の巨人はましやと思わなあかんかいのぉ」 「何でもその毒の煙幕はの、あの化け物にも毒らしいからのぉ、それであの巨人はこの街では使わんのと違うかいのぉ、ええ事も悪い事もあるって事じゃのぉ人生はのぉ・・・」 深いため息をついて長老どんは言うた。 「さて、ぼちぼち、ワシらも住処に帰らんといかんですなぁ」 「おかえりー爺チャン!」 明るい声で源さんと万さんの孫達が出迎えた。
世の中にこれほど理不尽で、摩訶不思議で、また悲劇的で、しかも大いに笑える世界があるだろうか!?
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| 最近、妙に背中に視線というか殺気を感じるのは何故だろう? 俺は薄気味の悪いこの感覚を気にし始めていた。
何かとりついたかな? 俺はくだらない冗談を自分に呟きながら、重苦しいようなその感覚を忘れようと努力した。
そんな或る日、俺は一軒の蕎麦屋に入った。そこは何時来てもそうこんでもなく、そう美味くもない蕎麦屋だった。
「ありがとう、ありがとう、あんたのおかげで店がこんなに・・・」 はぁ? この親父何言ってるんだ?俺は勘定をそそくさとすますと店の外に出た。
初老の男が俺にむかって言った。さっぱりわからんと俺は思った。この店は静かな店の筈だったがなぁ。
「おい、おまえ!」親父は奥さんを呼んで慌てふためいていた。 見れば外にはいっぱいの人があふれ並んで待っているではないか!
「此処ですね行列のできる床屋ってのは。ねぇ、あんた!」 またかよー気持ち悪いなぁと俺はさっさとその場を離れた。
なんだ?と俺は思った。見れば、年寄りの易者が俺のほうを見ている。 「あんたさん、凄い幸運な星をもってなさる。こりゃぁ、長い事いろんな人を見てきたわしだが、驚いたなぁ」 「本当かい?それ?」俺は疑ってはみたが、反面、悪い気はしなかった。 「まぁ、その幸運が良い事にいかせればいいですな」易者はニヤリと笑った。
「あんたは長男なんだから、帰ってきて葬儀の段取りとか決めてくれるやろねぇ」 か細く涙声で言うおふくろを思うと胸が苦しくなった。俺は夜行に乗るとすぐさま田舎に帰った。
丁寧に頭を下げると茶をすすめながら葬儀屋は色々と段取りを話し始めた。 見れば、外には黒ずくめの客が行列をなしていた。
おふくろは不安そうに言った。 俺はおふくろが心配しないように、静かに言った。 「あのな、従兄弟の正雄がいいとこを知っていたで、正雄に頼んであるからな、心配せんでええぞ」「そうかい」おふくろは安堵した顔を見せた。
静かだが妙に威嚇する言い方で男の一人が言った。 「そうだけど、何か?」 突然、他の2人が俺の腕をねじ上げるとその手に手錠をかけた。 馬鹿な!! 何故なんだ!!
「どういう事だよ!俺が何をしたってんだ?」 俺は刑事とおぼしき奴等に叫んだ。 「あんたが行く店には行列ができるんだってな。あんた、田舎に帰った時に葬儀屋にも行列を作ったな。わかっただろ、もう。あんたは、そうやって死ななくてもいい人間までいっぱい殺した事になるんだよ。さぁ、もういいな、行くぞ」
「あんた、その幸運を生かす事できんだのぉ、惜しい事じゃったな」
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