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短編小説のページ

目次

コマメストーリー

文:プラム
健太の冒険

当籤  [NEW]


文:うらら
ドロだらけのサンタクロース

湯けむりにつつまれて

二人の異邦人


文:林 克之
花言葉シリーズ

文:海狼(かいろう)
アデリーちゃんとポールさん Vol.1 泉のほとり

文:アデリーペンギン
ゆきこさんのネットの恋

文:ゆきこ
タイムマシン / 権座池

ある寄り合いにて・・・

行列のできる店


文:マスカット
黄泉の国 訪問記

文:桜三四郎
ひとりぼっちのホラー・ナイト!

波紋

文:カメ仙人



タイムマシン / 権座池   <文:マスカット>

権座池は周囲をミカン山に囲まれた村のはずれにあった。村のものは何時からこの池を権座池と呼び始めたのか解らず誰にも通じる呼び名としてそう呼んでいた。
「あんりゃぁ?」
「どうしたぃ? 勇作さん?」
「あれ、ほれ、あれだがな! 今、権座池の方に何か落ちたようだぞぃ」
「勇作さん、見に行こう」

権座池まではさほど遠くはないが、この暑い時節に歩くのは辛かったので二人は源太の軽トラで行った。池に近づくと何やら光る物体が見えた。

「何じゃろう?」源太が少々不安そうに言うた。
「まぁ、もちっと近づいて見てみようがなぁ」勇作は先に立って歩いた。

えらい元気やなぁと思いながら源太は後についた。

権座池のちょうど入ると膝下くらいの浅い水面にキラキラ光るお碗のような物が浮いていた。勇作がその中に入ろうとするので、源太は心配で叫んだ。

「ちょっと待てやぁ、勇作!」
「はぁ? 何でやなぁ?」
「危ない物かもしれんがなぁ?」
「大丈夫やがな、こっちこいさぁ」

源太が中を覗くと勇作がご機嫌で中のソファに座っていた。

「変な物やなぁ。」

それはお碗のような形をしたまるでモデルハウスの一室のように家具やら電化製品を置いてある結構大きな部屋のような物やった。

「きっと最新式のモデルルームやなぁ、これは。源太も入れやぁ」

恐々だったが、あまり意気地なしと思われるのもしゃくやで、思い切って源太も入ってみた。

「おっ、なかなか、ええクッションやなぁ、家にもこんなん欲しいのぉ」
「いっそ、二人でこの中の物運んで持って帰ろかいなぁ」
「勇作、そんなぁ、泥棒やないかなぁ」
「冗談やわ、冗談。 うん? このスイッチ何やろなぁ?」

源太が「むやみに触らんほうがええぞ」と言う間もなく勇作が触れてしもうた。

グギーーーーーン ウィーーーーーン


二人の耳に大きな機械音が押し寄せてきた。

「わぁーーーー」


ポチャーン。「ん? どうしたんやぁ、どうなったんやぁ?」
「勇作!勇作!大丈夫かぁ?」
「はぁ、大丈夫やぁ、えらい大きな音したなぁ」
「はよ、もうこんな変なとこ出よ!」
「そやな、なんや気持ち悪かったなぁ」

ポチャーン。

「なぁ、なんかさっきから音せんかぁ?」源太が言うた。
「ああ、ポチャンとか音するなぁ」

二人は濡れた足をふきながら周囲を見回した。別になんも変わった事はなかった。
ポチャーン。「また、したなぁ」二人は気味が悪くなった。
「はよ、帰ろうなぁ、勇作」
「そやな」

池の近くの小道に停めておいた軽トラに戻ろうと二人は立ち上がった。
「あれぇーーー?」「なんやぁ?」
「軽トラあらへんでぇ」「そんな事あるかいなぁ」
二人は走って小道へ降りるとそこに停めた筈のトラックを探した。

「あらへん・・・」
「くそぅ、キーつけといたでなぁ、盗まれちまったかぁ」
やれやれ、此処から村まで歩いて帰るはめになるとは。こんなとこ来んだら良かったなぁ。源太はそう思っていた。勇作は手ぶらで帰れるかい!と思っていた。みんなの笑い者になりとうないわぁ。

源太の止めるのも聞かず勇作はさっきのお碗の中に入っていった。

「えーい、このソファはトラックないで無理やなぁ、なら、この洒落た丸テーブルだけでも持って帰るぞぉ。」
勇作がうんしょと力を入れてそのテーブルを持ち上げようとした時・・・ポチャーンとまた音がした。

「あんたら、そこで何しとんのやなぁ?」
今時珍しい野良着を着た爺さんが歩いてきた。

「いやぁ、ちょっと変わった物があったんでなぁ、調べとったんやわ」
勇作はけろりと嘘をついた。源太は困った奴やと思いながらもここは同調しとくがええわなと思った。
「爺さん、あんた変わった格好してやなぁ?」

「わし、別に変わった格好してへんがなぁ、ここらじゃみんなこんな恰好やで、あんたらこそ変わった格好しとるがな。あんたら、殿さんとこの新しい家来衆かいのぉ?」

殿さん!?家来!? 二人はこの爺さんいかれとんのやわと思った。
相手にせんほうがええなと思うた二人は村の方へとぼとぼと歩いて帰った。


「勇作ぅ、わし、疲れとんのかなぁ? 変な物見えるでぇ」
「源太ぁ、わしも疲れとんのかなぁ? 嘘やそんなん!」

村のはずれまでやっと歩いてきた時・・・二人の目に入ったのは映画で見るような小さいがまぎれもなくそれは「城」だった。しかも、今、二人が立っている先には、ちょんまげ姿の侍が立っていた。

二人はこれは映画じゃないがな、なんか変やがなと怖くなってその場から逃げた。権座池に戻るしかないなぁ。あんな変な物に入ったんが間違いやったなぁ、ん? ここで源太の頭にある事がひらめいた。

「勇作や、こないだTVで見た映画でな、タイムマシンというのをやっとったんやな、もしかすると、あの変なお碗そうと違うかぁ?」
「うーん、そうかもなぁ、どっちにしても、こんなんじゃ家にも帰れへんがな、戻って調べてみようやぁ」


ポチャーン。二人が戻ったのを知らせるようにまた音がした。
「気になるなぁ、あの音・・・」
「気にしても仕方ないがな、はよ、あのお碗調べよな」

勇作は最初に入った時に偶然触れたスイッチをもう一度触ってみた。


「ご帰還ですね。先ほどは失礼をいたしました。音声装置が異常でお客様にタイムマシンの行き先設定のご説明をできませんでした。では改めてご説明をさせていただきます」

お碗が喋った!! 二人は仰天したが、これで帰れると思うとホッとした。

ポチャーン。

「ただいまのポチャーンで貴方様方がこのタイムマシンでこの世界においでになってから5ポチャーンの時が流れております。お客様のお乗りになった時代では、5かける事のポチャーンの年数がたっております。それでもお帰りになられますね?」

「なんやて?」
「どういう事やぁ?」
二人はわからんなりに青くなった。

「つまり、このタイムマシンをお使いになると500年も一瞬って事です。その感覚を忘れていただくといけないが為のポチャーンでしたが、どうもこちらの機械設定のミスでお客様への説明が行き届かなかったようです」

もう、わからん! わからんけど怖いでもう帰りたいよーと二人は思った。
「こ、これ押せば帰れるんや、絶対に」勇作は泣きそうになって言うた。
「ふ、二人で一緒に押すぞな」源太は言うた。目をつぶってエぃっと押した。

グギーーーーーン ウィーーーーーン


「やれやれ、帰れたな」源太は勇作の手を引くとお碗の外に出た。

水がない・・・池がない・・・そこは巨大なドームのような室内だった。二人の前を知的進化生命体グールがふわふわと飛んでいった。
「なんやぁ!?」 二人は頭を抱えて座り込んだ。


「教授・・・また犠牲者が出ましたよ。もうこういうたちの悪い冗談はやめましょうよ」助手は気の毒な二人の姿を画面の中に見ながら言った。

「ええか、あれは500年昔に生存しておった人間という愚かな生命体じゃ。愚かでもあの者らにもうちっと熟慮があれば、あのような事にはならんだとは思わんか? 世はまさに淘汰の繰り返しじゃ。まぁ、あの気の毒な者達は落ち着いたら元の世界に戻してやるがのぉ」

助手は教授のこの気晴らしに近い悪戯癖をやれやれと思っていた。ちょうど800年前にも同じ事があったのだ。
その時の愚か者の名前は確か・・・権座という名前だったな。追跡調査によれば、何とか無事に帰ったものの、気がふれたと噂が流れて池で溺れ死んだらしい。それからあの池は権座池と呼ばれているらしいな。

今回の犠牲者には最新の記憶喪失誘発剤を与えてから帰そう。もう、あんな気の毒な様は見たくないからな。助手は教授には内緒にしとこうと思った。

「さて、レポートを仕上げないとまた教授にお目玉をくらうな」
助手はグール独特の超思考蝕指を人口知能から自動で呼び出すとまずは1ポチャーンの時空間移動の歴史のデータをまとめ上げた。

「タイムマシンか・・・あれは確か6ポチャーン前の時代にとある作家が空想の産物として生み出した言葉だったかな・・・まっ、これはさして重要項目でないから削除だな」


【 おしまい 】

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ある寄り合いにて・・・    <文:マスカット>

「おばんです」 何時ものトレードマークのハンティング帽をかぶった安どんが入ってきた。
「やぁやぁ、 今晩は結構蒸しますなぁ」源さんが安どんに声をかけた。

「そうですなぁ、今年の夏も暑くなりそうですなぁ。この時期、わしらは元気にしとらんとほんまいけまへんなぁ」 安どんは帽子をぬぐとそう答えた。

「さぁさぁ、これで皆さん大体お揃いになりましたな。そろそろ始めたいと思うんじゃが、まだ来とらん方みえますかいのぉ?」長老の万さんが皆に言った。

「長老さん! 銀ちゃんがまだ来とらんぞえ?」松どんが言うた。
「松どん・・・あんた知らはらへんだんかなぁ?」
長老どんはちょっと悲しげに言うた。

「何をですかいのぉ? 長老どん?」

「はぁ〜〜・・・・」 長老どんは深くため息を一つ吐くと続けた。
「銀ちゃんは、昨夜亡くなったんだぞい」
「えーーー 嘘でっしゃろ? そんなぁ! 」松どんは叫んだ。
「わしも嘘であったらどんなに良いかと今朝からずっと思うておるのじゃわ」

「万さんやぁ、ここは一つ皆にもう一度昨夜の銀さんの災難について話してやったらどうじゃろなぁ?」 源さんが言うた。
「そうじゃのぉ、それが良いかもしれんのぉ。じゃで源さん一つ話してやっておくれな」長老どんはほんに寂しそうに言いなはった。


「皆には悲しい知らせになるのぉ。 先ほどから話題になっとる銀ちゃんはのぉ、ここからちょっと行った先の3丁目に住んでおったのじゃが、昨夜災難におうて亡くなったという訳じゃ。銀ちゃんには たまちゃんというええ女房もいたのにのぉ、可哀相にのぉ。おまけにたまちゃんは今お腹に赤子がおるのじゃよ。これから先わしらでできる限りの援助をしてやろうと思うておるので皆宜しく頼むぞよ」


源さんの話を聞いて皆はシーンとなっておった。すすり泣く者さえおった。
「なんて事だい! 3丁目というたらわしの家のすぐ近くでないかい。
確かあのでかい本棚の裏あたりと違うのかい?」 安どんが言うた。

「そうじゃ、そうじゃ、安どんの言うとおりじゃ」源さんが答えた。

「長老どん! で・・・ 今回のこの災難もまたあの化け物の仕業かいのぉ?」一番年少の 辰やんが聞いた。
「そうじゃのぉ、それしか考えられんからのぉ。なんせ銀ちゃんは 今朝3丁目の路地で手足をバラバラにもがれた状態で見つかったからのぉ。恐ろしい事じゃぁ」


寄り合いに集まっておる皆は全員ぞっとした。あの化け物に勝てる訳はないぞな。ただ見つからないよう、遊ばれて殺されないよう、ひたすら静かに暮らし向きをたてていくしかないでなぁ。 今月に入って銀ちゃんでもう3人目の不幸じゃぁ。「明日は我が身か?」 誰もがそんな事を考えながら黙り込んでいた。

「嘆いて怯えているばっかでもいかんぞなぁ」長老どんが言うた。
「そうじゃ!そうじゃ!」 源さんが皆を励ますように大声で賛同した。
「ほんまや、上手に逃げながらもあいつの鼻をあかしてやろうじゃないかい!」一番若い辰やんが血気盛んにこぶしを振り上げて言うた。

「まぁまぁ、皆の衆! ここは知恵を皆でしぼって対策をたてようぞな」
長老どんは皆にもふるまいの酒などをすすめながら言うた。

色々意見が出そろったところで、源さんがまとめ役として皆にこう言うた。

「夜の外出は必ず2人以上で出かける事! 特におなご衆や子供衆には特別気をつけてやる事! 皆もよう知っているようにワシらは夜型の生活じゃ。腹もすかせておる。辰やんは若いであの1丁目でようふんばっておるのぉ。確かにあの食器棚の裏は魅力がある住処じゃからのぉ。 じゃが、本当に気をつけるのじゃぞ!あのあたりはあの化け物も大好きみたいやからのぉ」

「それと! もう一つ大事な事じゃ!銀ちゃんの女房のたまちゃんとその赤子の行く末を皆で見守って欲しいのじゃ。先月災難におうた鉄どんの妹のお染ちゃんはやっと今月になって少し元気になったところじゃ。身内をあんな殺されかたで亡くしたらもうそれは辛い事じゃからのぉ。お染どんは今はワシのところにおるのじゃが、最初は昼間でもよう出かけやんとなぁ、恐がって恐がってどうしようもなかったのぉ。やっと今月からまた学校にも通えるようになったところじゃ」

辰やんが大きな声で言うた。「源さんやぁ、お染どんもいるなら食料も余分にいるじゃろう。 ワシとこは一番食料もふんだんにあるとこやで、何時でも来てくれやぁ。ちょっと危ない場所ではあるがのぉ」

「おお、おお、すまんのぉ。ありがたい事じゃ。その時はまた世話になるかいのぉ」源さんは目に涙を浮かべて言うた。


こうしてこの夜の寄り合いも終わりに近づいていた時の事だった・・・。

安どんがちょっと早めに帰らんと家で子供が腹をすかせているからと皆に挨拶をして帰ろうとした時だった・・・。


安どんがまさにあのトレードマークのハンティング帽を手に皆にニッコリと笑い寄り合いの席を離れた、その時!!!

毛むくじゃらの大きな黒と銀色の縞模様の巨体が安どんの後ろに現れた!!

「あーーーーー!!!!!!!」 皆が叫んだその時、哀れにも安どんはあの化け物の手にかかって押しつぶされた。必死に逃げようとする安どんの手足をもて遊ぶように引っかけては弾いたり転がしたりと・・・それはもう恐ろしい所業であった。


辰やんが血気に走って飛び出そうとするのを押さえるのが皆にできるただ一つの事じゃった。

長老どんの指図でとりあえず2丁目に逃げた皆はTVの裏からそっと安どんの災難を見ているだけしかできんだ。皆、泣いておった。

「あーー」 空をつんざくような大きな声がした。
「もう夢ちゃんたらまたゴキちゃん退治してたの!?」
あの化け物の何倍もあろうかという巨人が現れた。

「もう! 可哀相にまたこんな殺生してぇー」

巨人は安さんを白い巨大な紙のようなもので包むと4丁目に捨てた。
4丁目というのは松どんが時々腹をすかした時に入る大きなゴミ箱である。

こうして、この夜の寄り合いは最悪の結果となって終わった。
長老どんと源さんはしばらく残って話しておった。

「ここの街も昔は住み良い所じゃったのになぁ。あの夢ちゃんとか言うておったなぁ、あの巨人がのぉ、あの化け物さえここに住みつかなきゃワシらの生活も平穏無事だったのにのぉ」

「長老どん、ワシら・・・世間じゃぁ(ゴキブリ)とか(アブラムシ)とか呼ばれているそうじゃのぉ。どう呼ばれてもかまわんが、ワシらにも命ってものがあるんじゃで、何とか平穏な暮らしを取り戻したいのぉ」

「まぁまぁ、源さん! それでもなぁ、この街はええほうだという話も聞くぞい。何でも隣街ではのぉ、あの巨人とよう似た化け物がのぉ、煙幕のようななにか忍術を使ってのぉ、毒をばらまいてはワシらの仲間を殺しておると聞くからのぉ」

「そうでんなぁ、まだこの街の巨人はましやと思わなあかんかいのぉ」

「何でもその毒の煙幕はの、あの化け物にも毒らしいからのぉ、それであの巨人はこの街では使わんのと違うかいのぉ、ええ事も悪い事もあるって事じゃのぉ人生はのぉ・・・」 深いため息をついて長老どんは言うた。

「さて、ぼちぼち、ワシらも住処に帰らんといかんですなぁ」
源さんと長老どんは2丁目を目指して暗闇を急いだ。
大きなサイドボードの裏が二人の住処である。

「おかえりー爺チャン!」 明るい声で源さんと万さんの孫達が出迎えた。


「パパー! 夢ちゃんたら毎日1匹ずつゴキちゃん退治してんのよー」
「うーん、ゴキブリは汚いからなぁ、夢の身体に触るなぁ、気をつけやなあかんなぁ」「パパもよーく見てて気をつけてやってねぇ」
「ママ、夢の手や足拭いてやらんとあかんなぁ」


傍らで・・・「チェッ、今夜は1匹しか遊べなかったニャー」つまらんそうな顔をしてアメリカンショートヘアーの猫が座っている。

世の中にこれほど理不尽で、摩訶不思議で、また悲劇的で、しかも大いに笑える世界があるだろうか!?


【 おしまい 】

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行列のできる店   <文:マスカット>

最近、妙に背中に視線というか殺気を感じるのは何故だろう? 俺は薄気味の悪いこの感覚を気にし始めていた。 何かとりついたかな? 俺はくだらない冗談を自分に呟きながら、重苦しいようなその感覚を忘れようと努力した。

そんな或る日、俺は一軒の蕎麦屋に入った。そこは何時来てもそうこんでもなく、そう美味くもない蕎麦屋だった。
「天ぷら蕎麦ね、親父さん」俺は新聞を手に茶をすすりながら注文した。妙な視線を感じて振り返ると、店の外が何やら騒がしい。
うるさいなぁ、静かに食わせてくれよーと俺は思った。


手伝いの若いニキビ肌の女の子が蕎麦を持ってきた。俺は割り箸を取って七味をたっぷりと入れるとずるずると食い始めた。ん? やっぱり妙な視線を感じる。ふと見ると店の親父と女の子がてんやわんやで店の外で何やらしているではないか? なんだか騒がしい店になっちまったなぁ。早く食って帰ろうと俺は蕎麦をかきこんだ。


「勘定、此処に置くよ」と俺が言って立とうとすると、親父が駆け寄ってきて俺の手を握って涙声で言った。

「ありがとう、ありがとう、あんたのおかげで店がこんなに・・・」

はぁ? この親父何言ってるんだ?俺は勘定をそそくさとすますと店の外に出た。


「此処なんですね!行列のできる蕎麦屋ってのは。ねぇあなた!」

初老の男が俺にむかって言った。さっぱりわからんと俺は思った。この店は静かな店の筈だったがなぁ。


まぁ、いいか・・・俺はぶらぶらと散歩がてら散髪に行った。散髪ってのは俺の楽しみだ。すいている時間帯にゆっくりと半ばまどろみながら時を過ごす唯一と言ってもいい場所だからだ。


髭をあたってもらっていた時だった。床屋の親父が慌てて外に出て行った。

「おい、おまえ!」親父は奥さんを呼んで慌てふためいていた。

見れば外にはいっぱいの人があふれ並んで待っているではないか!
おかしな事だな・・・俺はちょっと気味が悪くなっていた。
二度も同じ場面に出くわしたからだ。


散髪を終えて俺が外に出ると、今度は中年の親父が俺に言った。

「此処ですね行列のできる床屋ってのは。ねぇ、あんた!」

またかよー気持ち悪いなぁと俺はさっさとその場を離れた。


そんな出来事の後、俺はほとんど家から出なくなってしまった。おかしな事だが、俺が行く店には必ず行列ができるようになり、新聞やTVにまで紹介されるようになったからだ。どうなってんだ? 俺は自由をなくした苛立ちのようなストレスを抱えて暮らす羽目に陥った。


そんな毎日に飽き飽きして、どうにでもなれ!という気分で久しぶりに俺は外出をした。駅前の人通りの多さに疲れた俺は、小さな路地へと入って行った。


おや、あんた! あんたですよ、ちょっとこっちに寄ってきなさい」

なんだ?と俺は思った。見れば、年寄りの易者が俺のほうを見ている。

「あんたさん、凄い幸運な星をもってなさる。こりゃぁ、長い事いろんな人を見てきたわしだが、驚いたなぁ」

「本当かい?それ?」俺は疑ってはみたが、反面、悪い気はしなかった。

「まぁ、その幸運が良い事にいかせればいいですな」易者はニヤリと笑った。


それからしばらく経った時・・・俺の田舎の親父が突然病気で死んでしまった。
おふくろが泣きながら電話をしてきた。

「あんたは長男なんだから、帰ってきて葬儀の段取りとか決めてくれるやろねぇ」

か細く涙声で言うおふくろを思うと胸が苦しくなった。俺は夜行に乗るとすぐさま田舎に帰った。


葬儀の段取りをまず決める必要があったので、俺は適当な葬儀屋に電話をした。
なるべく暇そうで小さな所にしたかった。大きな所は色々いらぬ物まで押しつけて葬儀費用をぼったくるからだ。幸い、小さいが親切な葬儀屋があった。
俺は早速その葬儀屋に出かけた。


「この度はご愁傷様でした」

丁寧に頭を下げると茶をすすめながら葬儀屋は色々と段取りを話し始めた。
半時ほどもたった頃だったろうか・・・葬儀屋がびっくりした顔で外を見て立ちつくした。

見れば、外には黒ずくめの客が行列をなしていた。


俺は叫びたいような恐怖にかられて、それをただじっと見た。
葬儀屋は客達に汗まみれになりながら指示をしていた。
俺はいたたまれなくなり、その場から逃げるように立ち去った。


「どうしたんだい? おまえが段取りしてくれるんじゃなかったのかね?」

おふくろは不安そうに言った。

俺はおふくろが心配しないように、静かに言った。

「あのな、従兄弟の正雄がいいとこを知っていたで、正雄に頼んであるからな、心配せんでええぞ」「そうかい」おふくろは安堵した顔を見せた。


親父の葬儀も終わり、俺はなんとも気味の悪い気持ちを引きずりながらも仕事があるので帰京した。アパートに入ろうとすると、俺の部屋の前に濃い目の背広を着た、いかにもいかめしい奴らが立っていた。


「あんたが、この部屋の人ですか?」

静かだが妙に威嚇する言い方で男の一人が言った。

「そうだけど、何か?」

突然、他の2人が俺の腕をねじ上げるとその手に手錠をかけた。

馬鹿な!! 何故なんだ!!


「あんたを過失致死の疑いで逮捕するからな、いいな」

「どういう事だよ!俺が何をしたってんだ?」

俺は刑事とおぼしき奴等に叫んだ。

「あんたが行く店には行列ができるんだってな。あんた、田舎に帰った時に葬儀屋にも行列を作ったな。わかっただろ、もう。あんたは、そうやって死ななくてもいい人間までいっぱい殺した事になるんだよ。さぁ、もういいな、行くぞ」


刑事に引かれて車に乗る俺に、誰かが声をかけた。振り向くとあの易者だった。

「あんた、その幸運を生かす事できんだのぉ、惜しい事じゃったな」


俺は初めてその時気づいた。そうか・・・俺は店を間違えたんだ。今度刑務所を出られる時には、献血にでも行くかな、そうすりゃちょっとは世間の役にたつってもんだ。俺はただ笑って易者を見た。


【 おしまい 】

 

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