長編小説 星になった ユキ兎
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文:星花 蛍 |
目次
出演
| ユキちゃん | ウサギ | この物語の主人公 目が見えないウサギの女の子 |
| ユパくん | ウサギ | ユキちゃんのお兄さん ユキちゃんと二人暮らし |
| タゴじいさん | タヌキ | 診療所の先生 |
| トメさん | ウサギ | 診療所の看護師さん |
| ヤッコちゃん | ウサギ | トメさんの娘さん ユキちゃんの親友 |
| シャロムさん | キツネ | ポンポッコ神社の神主さん |
| ミミンさん | ウサギ | ポンポッコ神社の巫女さん |
| ケン吉くん | キツネ | シャロムさんの息子 ユキちゃんの同級生 |
| きくちゃん | ウサギ | じぶり亭の おかみさん |
| さおりんちゃん | ウサギ | きくちゃんの娘さん じぶり亭のウェイトレス |
| ふみしまさん | クマ | じぶり亭の料理長 |
| のんちゃん | ウサギ | カフェ アプリコットのママさん |
| あゆみちゃん | ウサギ | のんちゃんママの娘さん 大学生 |
| パンちゃん | パンダ | ポンポッコ神社の仕事人 ユパくんの友達 |
| ダイちゃん | モグラ | ポンポッコ神社の仕事人 ユパくんの友達 |
| スゴちゃん | キツネ | お花屋 ホワイトローズの店主 |
| カスじいさま | タヌキ | ポンポッコ神社の 掃除人 |
| バニさん | ウサギ | 占い婆さん |
| れん先生 | ウサギ | ユキちゃんの担任の先生 |
| アド先生 | ウサギ | 音楽の先生 |
| レオくん | キツネ | 宅急便 白猫トマトの運転手 |
| アイスさん | キツネ | ペンション・クールのオーナー |
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お墓参り その1 どこまでも どこまでも 蒼くて 高い 高い 空のうえで イワシのような雲が ポッカリと日向ぼっこをしている ある日 肉マンのような丘を上って行く 二匹の兎がいました。 黄色と白の まだら模様なのは これから冬に備えて毛が抜け変わるところなのでしょう。 前を歩くのは パッチリしたおメメのお兄さんの ユパくん ニンジンを二本 しっかりとかかえて ゆっくりと歩いています。 時々 そっと後ろをふりかえりながら歩くのは 後ろからついてくる 妹の ユキちゃんを 心配しているからなのでしょう。 そのユキちゃんは お花畑で摘んできた コスモスを両手でかかえて 左の耳を お兄さんのユパくんのシッポに付けて歩いています。 いつもは そっと手で お兄さんのシッポにつかまるのですけれど、 今日は お手てが使えないのでしかたありません。 ユキちゃんは生まれつき オメメが見えません。 おメメはしっかりと つぶったままです。でも、汗をかきながら 一生懸命 お兄さんについて行きます。 トコトコと 二匹は歩きます。その訳は、この丘に お父さんとお母さんが眠っているお墓があるのでした。 ユパくんは お父さんが好きだったニンジンを、ユキちゃんは お母さんがすきだったコスモスの花を、 しっかりと胸に抱いて お墓参りに行くところなのです。 ユパくんが顔を上げると 遥かにお墓の入り口が見えてきました。 「ユキちゃん やっとお墓が見えてきた ほら もう少しだよ」 そういいながらふり返ったユパくんは ハッとしてしまいました。 また言ってしまったのです いつも気をつけていたのですけれど、 そう ユキちゃんには お墓が見えないのです。 ユパくんは うなだれてしまいました すると ユキちゃんが、 「うふふ お兄ちゃん 気にしないでね あたし何とも思わないから それより あと どれくらい歩くと お父さんと お母さんに会えるのかなぁ」 「ごめんね あのね あと10分くらいで会えるよ 疲れたかい」 「うん ちょっとだけね でもこのコスモスがしおれちゃうしぃ 早く行こうよ お兄ちゃん お父さんとお母さんが待っているから」 「もうちょっとだからね 帰りに 麓のタゴじいさんの診療所で 何か飲ませてもらおう ニンジンもそこで食べようね」 「あら さっき通った時 タゴじいさん声かけてくれなかったから お留守かと思っちゃった」 「あのね 誰かいたみたいで お灸してたんだ だから 手を振って ニコニコしてくれただけだったんだよ さぁ 行こう」 そして二匹は トコトコと また 歩き出します。 お墓参り その2 汗をかいて びっしょりになってしまいましたが なんとか二匹はお墓に着きました すると 風がとっても気持ちよく吹いています。 ユパくんは コスモスがしおれないうちに お墓に供えようと 花瓶を探しますが おかしいですねぇ お墓の花瓶がありません。 「どこに行っちゃったのかなぁ」と キョロキョロ探します。 すると 隣の狐さんのお墓に 花瓶が二つあるではないですか 「あぁ あったぁー また ケン吉が 持って行ったんだな」 ケン吉とは この村のガキ大将で いつもいたずらばかりして 二匹を困らせてばかりいる キツネです。 「ここで待っててね コスモスを花瓶に入れて来るからね」 「うん じゃぁ そのニンジン 私が持っているわね」 「動いてはいけないよ お墓の後ろは坂になっているからね」 そう言って ユパくんは コスモスと花瓶を持って 水を汲みに 駆け出しました。ユキちゃんは 耳と鼻の汗を 手でふきながら、 そっと耳をすませて ユパくんの足音が遠ざかるのを 聞いていましたが、足音がしなくなると 私も何かしなくちゃ と 手探りで お墓のまわりの雑草を ポツン ポツンと抜き始めました。 あらあら 白い山ユリも 雑草とまちがえて抜いてしまいました。 でもユキちゃんは お兄ちゃんが褒めてくれると思って 手が汚れるのもかまわず ポツン ポツンと抜き続けます。 そんなユキちゃんの背中から 黄色い夏毛が フワフワと 風に飛ばされて行きます まるで タンポポの綿毛のようです。 そんな時 水汲みから戻ってくる ユパくんの足音がしてきました。 急いで戻ってきたユパくんは 雑草がきれいになっているのを見て 驚きました。 そしてその中に 山ユリも混ざっているので 思わず、 「これ 山ユリだよ」と言いかけて やめました。 ユキちゃんが 得意そうに ニコニコしていたからです。 「おやぁ お墓の周りを きれいにしてくれたんだね ありがと」 「うふふ きれいになっているでしょ お兄ちゃん」 「うん きれいだよ それじゃ ニンジンとコスモスを飾ろうね」 そう言いながら ユパくんは 穴をほって ヤマユリをそっと埋めて 花瓶のお水を かけてあげました。 そして ユキちゃんの手をやさしく叩いて 土を落としてあげてから ユキちゃんの胸や お鼻のまわりに付いた コスモスの花粉を そっと落としてあげました。 「ユキちゃん 夏毛がすっかり風に飛ばされて まっしろになったね」 「お兄ちゃんはどう?」 「まだ お尻のあたりが黄色いかなぁ」 二匹は笑いながら お墓の前で お祈りするのでした。 ユパくんは「どうか ユキちゃんのおメメがよくなりますように」 ユキちゃんは「お兄ちゃんに やさしいお嫁さんが来ますように」 そんな二匹の間を 赤とんぼが スゥーッと 飛んで行きました。 「さぁ このニンジンを持って タゴじいさんの診療所で お昼にしようね お腹がすいたろ ユキちゃん」 「冷たいお水を 飲ませてもらおうっと それから帰りに また お花畑に寄ってほしいんだけどな お家にもコスモスを飾りたいの」 「うん じゃぁ そうしようね」 と 二匹は話しながら、坂道を手をつないで寄り添うようにおりて行きます。 お墓参り その3 「あ!先生 来ましたよ 来た来た」 と トメ看護婦さん。 「やっと戻って来たか どれどれ ほほぅ ユキちゃんは すっかり 真っ白になって 死んだあの子の母さんそっくりじゃなぁ ユパは ちゃんと手をつないでいつもやさしい子じゃ あいつの親父が そうじゃったのぅ あんな嵐さえなけりゃなぁ」と タゴじいさん。 「あぁーら ユパくんはまだ あちこちが黄色く残っているわね」 「トメさん 木イチゴのジュースがあったろう あれを 出してやっておくれ さぞ 喉がかわいたじゃろうて」 こんな話をしているとも知らずに 二匹は 診療所に着きました。 「タゴじいさん こんにちわ ユパです ここでお昼を食べさせて ください ユキも一緒です」と ユパくん。 「はぁーい 待っていたのよ 早くお入りなさい 疲れたでしょ 冷たい木イチゴのジュースもあるからね ユキちゃん 食べたら ブラッシングしましょうね ユパくんもね」と トメ看護婦さん。 「こんにちわ トメ看護婦さん お墓のところは 風が強くて 夏毛が みぃーんな飛んでいってしまったみたい」と ユキちゃん。 「そうね お母さんと同じ 雪のようにきれいよ」と トメさん。 「うわぁ うれしいなぁ お母さんに似てるなんて でもお兄ちゃんは まだ お尻のところが 黄色いんですって ねぇ お兄ちゃん」 「ほらほら お喋りはいいから ごはんにしようね」とユパくん。 そして ユパくんは2本のニンジンを見比べて ちょっと大きい方を ユキちゃんに渡しました。いつもユパくんはそうするのでした。 食べ物が少ない時は 食べないで ユキちゃんだけにあげることもありました。 でも つらいと思ったことはありません。 ユキちゃんは、それを知っているのかどうか判りませんが、ユパくんのいいつけを ちゃんと聞いて わがままを言わないようにしているようです。 ニンジンを食べ始めたユキちゃんを トメ看護婦さんが やさしく ブラッシングしているのを ユパくんが じっと見つめています。 きっと 昔 お母さんに ユパくんも そうしてもらったことを 思い出したのかもしれません。 そして 慌てて ニンジンと木イチゴのジュースを口につめこみながら目をパチパチさせて、 「あのぅ タゴじいさん ポンポッコ神社のシャロムさんに あの話を 聞いてもらえましたか?」 すると タゴじいさんが、 「おお 聞いた聞いた なんでも北側のところの畑は 今年までで来年からは 使わなくなるそうじゃ だから 貸し手くれるそうじゃ ただし 条件があってのぅ 」と ニコニコと話し始めました。 「それは どんな条件なんですか?」と ユパくんが聞くと、 「直接 シャロムが話したいそうじゃ 都合のいいときに 神社に来てほしいと 言っておった 時間ができたら行ってみることじゃ」 「はい ありがとうございます 明日 早速 出かけてみます 」 「おにいちゃん お引越しできるのかなぁ」と ユキちゃん。 「出来るといいんだけど 畑もすぐ前だし 川から離れてるし、周りには みんな住んでいるからね、友達も遊びに来てくれるよ」 「友達の家もあるから、お料理教えてもらえるよね」 「はい ユキちゃん これでさっぱりしたでしょ ほんと 真っ白ね 次は ユパくん いらっしゃい」と トメ看護婦さん。 ところが ユパくんは なんだか恥ずかしそうです。 タゴじいさんが笑いながら、ユパくんの耳をひっぱって トメさんの前まで連れて行きます。 痛い痛いと言いながら ユパくんもおとなしくブラッシングをしてもらい始めました。 そんなユパくんの隣でユキちゃんがニコニコしながら、 「お兄ちゃんブラッシング嫌いだから よくそうやって お母さんに耳を引っ張られていたわよねぇ うふふ」 「さぁ ユキちゃんおいで 今日来るだろうと思って ニンジンの炊き込みご飯を作っておいたんじゃ おにぎりにしておいたから、今夜 食べるとええよ。ユキは3個、ユパが4個じゃ」と タゴじいさん。 「うわぁー 私 ニンジンご飯 だぁーいスキ」 「いつも ありがとうございます タゴじいさん」と ユパくん。 そんな二人を トメ看護婦さんは うるんだ目で見守っています。 お墓参り その4 そうこうしているうちに ブラッシングも 食事も終わって、 二匹はさっぱりしたようです。 トメ看護婦さんが、おにぎりを包んでくれています。 木イチゴのジャムもしっかりと入れているようです。 「おいおいそいつは俺のジャムじゃぁないかい?」と タゴじいさんが 言っていますが、トメさんは知らんぷりで せっせと ユパくんの背中にくくりつけています。 「しょうがない、また 山で採ってくるかぁ どうじゃ ユパ 行くか」 「はい ちょうど栗も取れる頃ですから お願いします」 「それじゃあ ユキちゃんは私と一緒に お花を摘みに行こうかしら」と トメ看護婦さん。 ユキちゃんは、うれしそうに コックリしながら、 「あたし コスモスと野菊がいいなぁ お弁当を持って行きたいなぁ」 「じゃぁ 今日はコスモス取りに行かなくてもいいね」とユパくんが言うと、 「うん 寒くならないうちにお家に帰ろうね おにいちゃん、おにぎりもあるしね」 そこで皆は 笑い出してしまいました。 風がちょっとだけ涼しくなったようです。そこでユパくんが 二人に、 「今日はいろいろとありがとうございました。 明日 シャロムさんの所に 行ってきます。ほんとに ありがとうございました。トメさん ジュースとてもおいしかったです」 ユキちゃんも、 「タゴじいさん、トメさん ご馳走様でした。おにぎりありがとう」> そしてユパくんはユキちゃんの手をとって歩き出します。 「気をつけて帰るんじゃぞ」と タゴじいさん。 「途中まで私も一緒に帰るわ」と トメ看護婦さん。 と 言いながら二匹の後を追って駆け出しました。 トコトコと 歩き出した二匹を追いかけてきた トメ看護婦さん、 「ユパくん 明日 行けばわかるけどね シャロムさんが言う条件 ちょっと むずかしいかもしれないけどね、これからの事を考えるとシャロムさんの言うとおりにするのがいいと思うわ」 と 何やらわけの判らないことを言い出しました。 ユパくんは、じっと トメさんを見つめてから、 「はい よく考えて 難しい時はタゴじいさんに相談します」 と答えながら、おにぎりの入った包みを よっこらしょっとかかえなおしました。 「あらあら、ちょっと重たかったかしら 木イチゴのジャムまで入れちゃったしねぇ」 と笑いながら、ユキちゃんと手をつないで、 「あのねユキちゃん うちの ヤッコちゃんもあなたと同じ年だから、明日のお話が決まると お家も近くなるし 仲良くしてあげてね」 「いえいえ ヤッコちゃんにはいつも 助けてもらっているんです。こちらこそ 宜しくお願いします」 と、ユキちゃんが言いました。 お日様が、柿の実のように赤くなりだした夕焼け空の下 三匹は小川の土手まで来ていました。 「さぁ ここでお別れね」とトメさん。 ユパくんは「ありがとうございました」と言いながら、ピョコンとおじぎをしました。 「ヤッコちゃんに よろしくね」とユキちゃん。 そして 二匹は トコトコと歩いて行きます。 するとユパくんが、後ろを振り返って まだトメさんが 手を振りながら見送っているのがわかると、大きな声で 「さよなら」と やはり手を振ります ユキちゃんもいっしょになって 手を振っていますが、少しだけトメさんとはちがう方を向いています。 するとユパくんが、そっと肩を抱いて トメさんの方を向かせてくれています。 ユキちゃんはちょっとだけ恥ずかしそうにしましたが、すぐに元気よく 「トメさん さよならぁ」と 大きな声で言いました。 夕日で真っ赤になった二匹はまた トコトコと歩き出します。 そんな二匹を トメさんは流れる涙を拭こうともせずに、一生懸命 手を振っています。空には 一番星がポツンと、またたきだしました。 夜のお話 家に帰った二匹は、楽しそうに晩ご飯のオニギリを食べています。 「今日は疲れたろ だいぶ歩いたからね」と ユパくんが言うと、 「うぅん 大丈夫よ おにいちゃん それより 明日はどんなお話なんだろぅね」と 口をモグモグさせながらユキちゃん。 「そうだね でも きっといい話だと思うよ それにしてもこのオニギリ おいしいねぇ」 と ユパくんはもう 三つ目のオニギリを パクつきながら うれしそうに喋っています。 すると、ユキちゃんの食べているオニギリから ニンジンがひとつ ポロッと落ちました。 それに気づいたユパくんが拾ったまではいいけれど、ユキちゃんがオニギリを食べ続けているので、どうしようか 迷ったあげく パクリッと 自分の口に入れてしまいました。 「でも お引越しになると このお家ともお別れになるんでしょ」と ユキちゃん。 「うん でもここはこのままにしておくから、今までの思い出は ちゃんとのこしておこうね」と ユパくん。 「ここには お父さんと お母さんとの楽しい思い出があるもんね」と ユキちゃんが、ちょっと涙声で話はじめると ユパくんも、ふと やさしかったお母さんや走るのが速かった お父さんを思い出してしまったらしく、鼻をすすりあげています。 おやおや 二匹とも 下を向いて黙ってしまいました。 外では北風が 落ち葉をせきたてるようにして 吹いて行きます。 どうやら二匹は 悲しくなってしまい、オニギリの残りは明日の朝にするようです。 黙ったままモゾモゾと 藁のお布団を仲良くくっつけて、黙ったまま寝てしまうようですね。 北風の 寂しそうな音だけが いつまでも聞こえています。 どうか 明日は 良い日になりますように
1 お墓参り ---おしまい---
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小さな決断 その1 鏡のような静かな川に 鳥たちが舞い降りて来るようになった頃、 ユパくんはユキちゃんを連れて、いつものように学校へ向かいます。 川沿いの道を 昨日トメさんと別れた橋の所まで来ました。 すると 橋のたもとに 誰か立っています。 「おやぁ 誰だろぉ」と、ユパくん すると元気よく「お早う」っと 声がしました。 それを聞いたユキちゃんが、 「あぁ ヤッコちゃんだわぁ お早う」 と こちらも元気よく答えます。 「あっ ほんとだ ヤッコちゃんだ」 ユパくんは驚いています。 「ねぇユキちゃん よく声だけで判ったね、まだ ボクには誰だか小さくてわからないよ」とユパくんが言うと、 「私 おメメの代わりに おミミがとってもよく聞こえるのよ」 すると、ヤッコちゃんが走ってきて 「ユキちゃん ユパさん お早う」とニコニコして 「ユパさん これからシャロムさんの所に行ってね、私がここからユキちゃんと一緒に学校に行くから」と言いながら、 もう ユキちゃんの手をとって歩きだしました。 ユパくんはあわてて、 「いいよ いつも僕が連れて行くんだから」と言います。 すると、 「きにしないで たぶんこれからは こうやって 毎朝ユキちゃんと行くことになるかもしれないから 練習、練習」と、ヤッコちゃん。 「おにいちゃん あたし ヤッコちゃんと学校に行くわ、いいでしょ」 ユパくんは、ユキちゃんとヤッコちゃんを交互に見ながら、 「それじゃあ ヤッコちゃん 宜しくお願いしますね」と言って、橋の上で 笑いながら楽しそうに歩いていく二匹を見送りました。 もう二匹とも何かの話に夢中になっているようで笑い声だけが風に乗って聞こえています。 ユパくんも思い出したように、そこから反対のポンポッコ神社の青い森を目指して走り出しました。 どんどん走っていくと、やがて道が二つに分かれています。 まっすぐに行くと、まんじゅう山 右に曲がると、ポンポッコ神社 その曲がり角にあるのが、カフェ アプリコットという喫茶店です。 今 外で窓を拭いているのが、ここのママさんの のんちゃんです。 「あら ユパくん、こんな朝早くからどこに行くの」とママさん。 「お早うございます ポンポッコ神社のシャロムさんの所です。何か話があるそうなんです。」とユパくん。 「ふぅーん、とにかく気をつけてね。悪い人ではないけど、けっこういいかげんな所があるからね。」と笑いながら言っています。 ユパくんは何と返事をしていいやらわからずに笑いながら走って行きます。 「帰りに寄ってね、にんじんケーキが出来たから おごってあげるからねぇ」と手を振りながら見送ります。 そうこうしているうちに、やっとポンポッコ神社に着きました。 すると、入口にあるお店の じぐり亭のおかみさんのきくちゃんが、道に水をまいています。 「おや、ユパくんじゃないの 何かあるのでふか?」と話しかけます。 「あ、おかみさん お早うございます。シャロムさんに呼ばれたんで」 「へぇ、あの いいかげんなシャロムが、なんだっちゅううんかね」 いやはや シャロムさんの話を聞く前に、ユパくんは頭が痛くなってしまいそうです。 「帰りに教えてほしいことがあるので、寄りますね」と、ユパくんは言いながら神社に入って行こうとすると、 「だまされないように、よぉーっく話を聞くんだよ いいね」と、おかみさんが念を押して言いました。 どうやらこのシャロムさんって、なんだかあやしげな神主さんなんでしょうか? 「ところで あたしに何を教えてもらいたいのでふか」と、おかみさん。 「ユキがこの間食べたチャーハンの作り方を 知りたいというので教えてほしいんです。」 「なんだ、そんなことかい?ほいほい。紙に書いておくから帰りにアプリコットで待っているから おいでよ」と、おかみさん。 「はい、じゃぁ アプリコットに寄ります。さよなら」とユパくんは言いながらポンポッコ神社に入っていきました。 小さな決断 その2 いつ来ても静かな神社に、ユパくんはお参りをしてから右の建物の所で、 「お早うございます シャロムさん ユパです」と 大きな声で呼んでみます。 しかし 返事がありません もう一度呼んでみます。そして ふと壁を見ると神聖な場所には不似合いな SANZAN DOSU と書かれたユニフォームが飾ってあります。 「変わった名前の サッカーチームだなぁ」と 独り言を言っていると、ドタドタと奥から歩いてくるようです。 「おお お早う ユパくん朝からどうもね」と、これはこの神社の神主さんのシャロムさん。 「あ、お早うございます 話があるというので来ました」とユパくん。 「ちょっと 畑で話そうかね、その方がいいだろう」とシャロムさん。 「あのぅ さんざんですってのは、どこのサッカーチームなんですか」 「え?さんざん? ばかなこと言ってはいかんよ、あれはねサガントスって呼ぶのよ、サガントスよ、まちがっちゃいかんよ」と、言いながら 「ほら、この畑なんだけどね。広いだろここをね、今パンダのパンちゃんとモグラのダイちゃんに任せてあるんだけど、 どうもあの二人では間に合わないんだよ。ちょっと前まではさぁ スゴちゃんが手伝ってくれていたんだがね、本業のお花屋さんが 忙しくなったとかでな、来なくなっちまったんだぁ。そこでだ、ユパくんに手伝ってもらいたいんじゃよ どうかな」とシャロムさん。 なるほど、話というのはこの事なんだぁ と心の中でユパくんは思いました。 それを横目で見ながら、 「いやいや 無理にとは言わないよ、手伝うと言う人は ほかにもいるからね。はっはっは」と どうやら駆け引きが始まっているようです。ユパくんはとりあえず、 「仕事の内容や 時間とか お給料なんかはどうなんでしょう」 すると、シャロムさんは 「ここで取れた野菜や果物の1割と、ほら あそこの小屋を 給料の換わりに使うってのは どうかな」 なんと、これではほとんど タダ働きと同じみたいな条件です。 「パンちゃんは、力仕事は出来る。そして、ダイちゃんは 細かい仕事。ところが、栽培とか水やりなんかがあの二人では 出来ないんじゃ」 「と言うことは、栽培とか採取とか世話をすればいいんですね」 「そう そうなんじゃよ、おまえは野菜を作るのが得意じゃからな」 「少しでいいから、お給料もいただけるといいんですが」とユパくん。 「あっそう ふぅーん 他にも働きたいという人はいるんでね」と、言いながらジロリとユパくんを見下ろして言いました。 「とりあえず、考えてみてくれよ。そうだなぁ、3日くらいは待っているよ。それから時間は、朝7時から午後3時までだよ」 「え?朝7時ですか、ユキを学校まで送らないといけないんです。8時からではいけませんか」と、ユパくん。 「だめだめ 朝一番で、野菜を市場に持っていかないと売れないんだよ」と、シャロムさん。 ユパくんは困ってしまい、下を向いてしまいます。それを見て、 「とにかく、あのタヌキおやじがうるさいから最初に声をかけたんじゃから」 「え、誰がうるさいんですか」と、ユパくん。 「あ、いやいや なんでもないなんでもない。とにかく、3日じゃよ」と 言うだけ言って、スタスタとシャロムさんは戻っていきました。 シャロムさんの後姿を見送ってから、ふぅーっと ため息をついて、 ユパくんはトボトボと来た道を戻って行きます。 「条件はあまりいいとは思えないけど、今の所よりは住みやすいかもなぁ」と独り言を言いながら、気がつくと カフェアプリコットの前です。 「そうだ のんちゃんママとじぶり亭のきくちゃんが、待っていると言っていたんだっけ」と、思い出して中に入ってみました。 すると、のんちゃんときくちゃんの他に タゴじいさんが待っていました。 「おぅ どうじゃったぁ 話は」と、タゴじいさん。 「はい、三日以内に返事することになりました」と、ユパくん。 「給料がちと安かったかのぅ?」と、タゴじいさん。 「いえ 給料はないんです」 「なんじゃと?そりゃ話がちがうわい、ちゃんと話をしてごらん」 そこでユパくんは、さっきのシャロムさんの話をしました。すると、 「あのバカタレがあ、よおーっし わしが話しつけちゃるからのぅ」と言い捨てて、タゴじいさんが立ち上がり、 「ユパ ここで待っていなさい。お昼までには戻るからのぅ。そうじゃ、きくちゃん チャーハンを出前しておいてくれ、わしとユパのぶんじゃ」 「あらぁ、あたしもあたしも」と、のんちゃんママ。 「ほいほい、ではあたしのも合わせて 四人前でいいでふね」と、きくちゃん。 「よしよし、かまわんさ どうせあのしぶちんのシャロムのおごりということにしちゃえ」と、言いながら出て行きました。 「でも、それはちょっとひどい話よねぇ 」と、のんちゃんママ。 「あのシャロムの事だもの、そんなところの話でふ」と、きくちゃん。 「でも、少しでも お給料をいただけると、助かるんですけどね」 「さぁさぁ、タゴじいさんが談判しに行ったんだから何とかなるわよ、きっとね。それより、はい キャロットケーキ 失敗作で 悪いけど食べてみて」と、ケーキを二つ出してくれました。 「あらぁ、あたしにもかい うれしいでふ」と、きくちゃんは もうパクついています。 「あのぅ、このケーキどこが失敗作なんですか」と、ユパくんが聞くと、 「ほら ここがへこんでいるでしょ」と、のんちゃんママが指でケーキをちょっとだけ、つぶしちゃいました。 「あははは、これは売り物になりませんでふ」と、きくちゃん。 「いつも皆さんには、いろいろお世話になってすみません。でも、シャロムさんの仕事をやらせてもらえるなら、なんとか もう少し生活も楽になると思うので、条件が悪くてもやろうと思っているんです」と、ユパくん。 「まぁまぁ、タゴじいさんの結果を待っていましょうよ。なんだか自信あるみたいだったわよ」 「そうでふ、さぁ ケーキ食べて待っていましょうね、ほらほら」と、きくちゃんが そっとユパくんの肩をなでています。 その頃ポンポッコ神社では、ものすごいことが起こっていたのでした。 小さな決断 その3 カフェアプリコットで、三人がキャロットケーキをパクついてる頃、 タゴじいさんとシャロムさんが、どうなっていたかと言いますと・・・ 証人 その1 パンダのパンちゃんの話 いやぁー ぶったまげたのなんのって、あのタゴじいさんが怒鳴りながら走って来てさ、 「シャロム 出て来い」って、そりゃぁ鳥居が倒れそうな大声で叫んでいたんだ。 するとあのシャロムさんが、 「まぁまぁ 落ち着いて 落ち着いて」って言ったとたんにね、タゴじいさんが ポカリッ って、ぶん殴ってしまったんですよ。 そのあとは、おっかなくなって仕事に戻ってたもんでわからんです。 証人 その2 モグラのダイちゃんの話 おらが見たのは、タゴじいさんとシャロムさんが笑いながら、あっちのホラあの小屋の方に歩いていくところだったんですよ。 タゴじいさんがシャロムさんに、 「いやぁぁ すまんすまん」って言っていてね、シャロムさんも 「わかってくれればいいんだよ」とかなんとか言っていたんです。 殴ったかどうかは知りません。 ただ ちゃんと書類を書いて、きちっとしておこうとかなんとか言っていたようです、はい。 証人 その3 ポンポッコ神社の掃除人 カスじいさまの話 タゴじいさんが、シャロムさんの話をよく聞けばよかったんじゃよ。 それとシャロムさんもサッカーの試合にチームが負けたんで、機嫌が悪くてなぁ ユパくんに、よっく話とらんかったみたいじゃよ。 あの小屋とその前の土地は、昔 ユパのおやじさんが、シャロムと約束していた事で、シャロムさんもあの土地だけは 売ってくれと いろんな人に言われても 断っていたんじゃ。 いつの日かあの二匹にやるつもりじゃったようじゃ。 でも、いつまでも優しくしていたのでは、あの二匹の為にならんちゅうて ちょっとばかし苦労をさせるつもりで、 あんな事を言ったんじゃ。シャロムさんは、ユパの野菜作りの腕を高くかっているからの。 おっと、よけいな事を話しちまったようでいかん。掃除せんと、また怒られるでの。 証人 その4 占い婆さん バニさんの話 おぉおぉ、小川でキャベツを洗うウサギが見える。 あぁあぁ、こっちには石をころが 兎が見える。 なんと、沢山の石があるぅ。 この兎の将来は、この石をどうするかであるぞ。 おぉぉおおぉぉ。 と、何やら判らなくなってきた頃、ユキちゃんの学校でも困った問題が起きていたのであります。 それはと言いますと、ここはユキちゃんやヤッコちゃん、ケン吉くんが勉強しているポンポッコ学園中等部の教室です。 担任の先生は、れん先生。 おやおや、ケン吉くんは一番前に座らされていますね。 たぶん、授業中にお喋りばかりしているからなのでしょうね。 ユキちゃんとヤッコちゃんは、仲良く窓際の一番後ろで勉強しています。 今 ホームルームが行われているようです。 ところがなんとなく気まずい雰囲気が漂っているようですね。 かいつまんで話すと、こう言う話し合いのようです。 中等部は二年間勉強するのですが、その一年目のこのクラスでは、だいたい半分が就職し、残りの半分は上の学校に進学するようです。 その進学するグループからユキちゃんのノートをとる音がうるさいとまでは言わないけれど、気になって 勉強に集中出来ないから どうかしてほしいと言う提案があったのでした。そして、れん先生が皆の意見を聞いているところなのです。 今の所 だいたい気にならないと言う子と、どうしても気になると言う子が半々のようですね。 すると、ケン吉くんが 「ユキちゃんは どう考えているんだよ。いつもほとんど自分の意見を言わないけど、今日はそうはいかないよ」と言い出しました。 ユキちゃんは じっと 下を向いたままです。すると、れん先生が優しく 「ねぇ ユキちゃん、皆はあなたをいじめているんじゃなくてね、どんな方法があるかなぁ?ってお話をしているのよ。 だから ユキちゃんの言いたい事を 言ってみてごらんなさいね」 すると、やっと聞こえるくらいの声でユキちゃんが話し始めました。 「みんなに迷惑かけてしまってごめんなさい。でも、私 この学校の一年目は特別室で一人だけで点字の勉強をしたの。 その時はとても寂しくて 寂しくて、でもねこれが出来ないとみんなと お勉強出来ないからって言われたの。 だから頑張って点字を覚えて、二年目にみんなといっしょになれた時、とってもうれしかったんです。 それにみんなも優しくしてくれたしね、だから私 みんなの邪魔になりたくないんです。でも、また一人ぼっちで勉強したくないし、 だから 教室の後ろの隅に机を持っていくから、この教室でいっしょに勉強させてもらえたら、とってもうれしいんです。 だからお願いします」と言って、また下を向いてしまいました。そのおメメには、涙があふれています。 そして、その後 皆で話し合いを続けていましたが、突然 ガタガタと席替えをし始めました。 どうやら 意見がまとまったようですね。 つまり、進学する子は廊下側の前の方に集まっていて、就職する子は窓際の方に集まりました。 そしてユキちゃんとヤッコちゃんだけが、窓際の一番後ろの方に移動したのでした。 どうやらヤッコちゃんは、ユキちゃんが可愛そうなのでいっしょに並んでお勉強することにしたようです。 おやおや ケン吉くんはどうやら今までの場所のようですね。 「先生 何で俺だけ 席が変わらないんですか」とケン吉くんが言うと 「あなたはいつも居眠りしたり、お喋りしたりしているから、一番目立つ場所がいいのよ」と、れん先生がキッパリと言いました。 すると、クラスの皆が笑い出しました。 ユキちゃんも笑っています。どうやら一段落したようです。 小さな決断 その4 さて、ポンポッコ学園で そんな話が出たとは知らずにユパくんは、カフェアプリコットでタゴじいさん、 シャロムさんとなにやら真剣な顔で話をしています。 「と言うことで、お前の父さんと約束した土地はそのままにしてあるから、一生懸命働いて自分の土地にしないとなぁ」とタゴじいさん。すると、 「給料の半分を その土地の代金として 残りの半分を月末に手渡すという事でどうかな」と、シャロムさん。 「はい、そういう事になっていたのでしたら、こちらはかまいません。宜しくお願いします。それでだいたいお給料は、 いくらくらいいただけますか」と、ユパくん。 「1ケ月100ポンポッコということでどうかな」とシャロムさん。 「つまり50ポンポッコは、ユパの手にのこるんじゃ。まぁまぁじゃの これでいいかのぅ」と、タゴじいさん。 「それだけいただけるのならとても助かります。もしユキちゃんが、上の学校に行きたくなってもなんとかなりますから、 その条件で宜しくお願いします」と、ユパくんが二人に 頭を下げました。 のんちゃんときくちゃんが安心したように、うなづき合って喜んでいます。すると、突然 「はぁーい お待ちどうさまでふ」と、じぶり亭のさおりんが出前のチャーハンを持って入って来ました。 「あっ おかん ここにいたんだぁ まったくぅ お店が忙しいってのにぃ」と、チャーハンを並べながら、 ブツブツ文句を言っています。 「あらま そうかいな、じゃあ戻るとするかい。そうそう伝票は シャロムさんに渡してね」と、きくちゃん。 「ええぇ?なんであたしなんだい 殴られたうえにおごらされるんかい」と、シャロムさん。 「まぁまぁ チャーハンはわしがおごるよ」と、タゴじいさん。 「じゃあ ケーキの伝票は はい これね」と、のんちゃんママがシャロムさんに伝票を渡します。 「え?何々 キャロットケーキ6個、アップルパイ2個だって」と、シャロムさんが 笑いながら受け取りました。すると、 「いいのいいの ユパくんと ユキちゃんのお土産も入っているのよそれから土曜日は、6時からクリスマスパーティーですからね。 プレゼントを皆さん 忘れずにね」と、のんちゃんママ。 「ユパくんはまだ働いていないから、ユキちゃんをつれてくればいいんでふよ」と きくちゃん。 「はい ありがとうございます。ユキちゃんも楽しみにしています」と、ユパくんもうれしそうに言いました。 カフェアプリコットを出て、橋の方に歩きながら、タゴじいさんが 「ところで引越しはいつするつもりじゃ」と ユパくんに聞くと、 「今夜 ユキちゃんに今日の話をして、出来れば今年のうちに新しい家に引っ越そうかと考えています」と、ユパくん。 「そうだね、ちょうどユキちゃんも冬休みになるし、なんとか学校までの道を一人で行けるように練習せんとな」と、シャロムさん。 「どうしてもそうした方がいいのでしょうか」と、ユパくんがシャロムさんに尋ねます。 「いつまでもユパに連れられていたんじゃ、これから先 ユキは何も出来なくなるし、おまえもいつも傍にいなきゃならんとなると、 お互いによくないと思うのでな」と、タゴじいさんがユパくんの肩をつかんで、さらにこう言います。 「いつかは 兄妹が別れる時が来るんじゃ、その為に今はそうした方がいいんじゃ」 シャロムさんもうなづいています。すると、橋の所で誰かが手を振っています。 「おやぁ あれは誰だろぅ」と、タゴじいさん。すると、 「あれは れん先生とユキちゃんじゃないかな」と、シャロムさん。 「あっ!ほんとだ。何かあったのかな」と、ユパくんが走り出します。 小さな決断 その5 れん先生は、今日の席替えの事を説明する為に、ユキちゃんを送ってきたのです。 「皆さん こんにちわ。ユパくん、久しぶりね」と、れん先生。 そして学校での出来事を 詳しく話してくれました。 ユキちゃんは何も言わずに ユパくんの手をギュッと握っています。 ユパくんは、ユキちゃんの顔に泣いた跡があるのを見て、黙ってユキちゃんのお耳をやさしく撫でています。 どんなにつらかったかユパくんは判っていました。すると、れん先生が 「テープレコーダがあると、ユキちゃんの勉強も楽になるのよね。でも学校にあるのは大きいし、皆で使わないといけないらしいのよ。 この話、どこかでサンタさんが聞いていないかしらねぇ」と、ため息をつきました。 それから間もなく、皆はそれぞれの道へ分かれて歩き出しました。 れん先生は学校の方に、ユパくんたちは川沿いの道を、そしてタゴじいさんとシャロムさんは、ポンポッコ神社の方に帰ります。 その帰り道に 土曜日のクリスマスパーティーで、サンタの役をする事になっているこの二人が相談した、とんでもなく楽しい 悪巧みのことなど、ユパくんもユキちゃんも そしてれん先生も想像もしていなかったのです。 その夜 晩御飯を食べた後、のんちゃんママに貰ったキャロットケーキとアップルパイを食べながら、さっきからユパくんがボソボソと 話をしています。ユキちゃんは、時々うなずくだけで静かにユパくんの話を聞いています。 「だからね、来年からは一人で学校に行けるようにならないとね」と、ユパくんが言うとユキちゃんが、コクンとうなずきます。 「引越しも急がないとね、だから明日のクリスマスパーティーを楽しんだら、明後日からはね、その準備をしたり、いろいろと忙しくなるからさ わかったね」またまたユキちゃんは、コクンとうなずきます。 「いつから働くの」と、ユキちゃんが聞きました。 「たぶん 学校が始まる日になるかな」と、ユパくん。 「でもね、ユキちゃんが慣れるまでは、ちょっと遅くしてもらおうと思っているんだ」と、アップルパイを食べながらユパくんが答えます。 「大丈夫。私ちゃんと行けると思うの。それにお友達もいるし、橋のところだけあぶないけど あとは怖い所ないもん。 それより おにいちゃん、今度のお家は どんな家なのかなぁ」と、ユキちゃん。 「あのね、小さな暖炉がある部屋と少し大きな部屋、それに トイレとお風呂までちゃんとあるんだよ」と、ユパくん。 「うわぁ トイレとお風呂も家の中にあるの いいなぁ。この家はトイレが外だから、夜 怖くて寒かったもんね。ねえねえ、おにいちゃん明日から もうお引越ししちゃおうよ」と、うれしそうにユキちゃん。 「あはは そうしようかなぁ。じゃあ、明日は新しいお家の掃除をしてしまおうか。そうすれば、早く終わるかもしれないからね」 すると、ユキちゃんがポツリと尋ねました。 「おにいちゃん、仕事で使う長靴ないでしょ。新しいのを買ったほうがいいんじゃない」 「いいや、いらないよ。この靴があるからさ、それよりもね、勉強で使うテープレコーダーがあるといいと思うけど、どうかな。来月から給料も貰えるし、買おうと思うんだけれどもね」と、ユパくん。 「ううん、とっても高いみたいだし、教室も後ろにしてもらったし」と、ユキちゃんがキャロットケーキを食べながら言いました。 「うん。でもそのうちに買ってあげるから、楽しみに待っていてね」 二匹は楽しそうに明日のクリスマスパーティーの話をしながら、いつもより遅くまでおきていました。 そのパーティーにほんとのサンタさんが来ることなど、知らずに夜が更けていきます。 楽しいクリスマスパーティーになりますように。
2 小さな決断 ---おしまい---
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今夜はクリスマスイブです。 カフェ アプリコットでは、すでにパーティーが始まっているようです。 タゴじいさんとシャロムさん、そして巫女さんのミミンさんが、ビンゴ大会の準備をしています。 じぶり亭のきくちゃんとさおりんさん、そしてのんちゃんママが忙しくお料理やらケーキやら作っています。 それをトメさんとれん先生が、みんなに配っています。 ピアノを弾いているのは、音楽の先生のアドさんですね、皆楽しそうにあちこちで友達と グループになって 話しています。 スゴちゃんと ケン吉くんとユパくんは、どうやらラジコンの話のようです。 あのねボク カウンタック買ってもらうんだよ」とケン吉くん。 「いやいや やっぱフェラーリだよ、それも赤ね、うーんかっこいいなぁ」とこれは、スゴちゃん。 「来年すこしずつ貯金して ポルシェを買うんだ」 とユパくんも 目をキラキラさせて話しています。 「そしたらさぁ、レースしようよ、きっと楽しいよ」とケン吉くんが言うと 「おまえ 成績上がったのか、そうでないとラジコンも買ってもらえないぞ」とスゴちゃんが笑いながら頭をこずいて話しています。 こちらでは、パンちゃんとダイちゃんとヤッコちゃんが、ユキちゃんを囲んで新しい家に作る花壇の話をしています。 「おいらとダイちゃんが作ってあげるからさぁ、心配しなくて大丈夫さ」とパンちゃん。 「そうそう、スゴちゃんのところに いっぱい種があるからさぁ わけてもらえるように話しておくよ」とダイちゃん。 するとトメさんが料理や飲み物を運んできてくれました。 「はい、お待ちどうさま まだまだあるからいっぱいたべてね」 隣に座っているヤッコちゃんが、ユキちゃんに食べ物の位置を教えてあげています。 「あのね12時のところにサラダがあって、3時のところにパン、6時のところにから揚げ、そして9時のところにケーキね、 飲み物はパンの隣ね」ユキちゃんは、そっと指で触って確認しています。 今度は、れん先生がビンゴのカードを配ってくれました。 「えーと、ヤッコちゃんユキちゃんといっしょにビンゴの数字を確認してあげてね」 するとシャロムさんが鈴を鳴らして、 「さぁさぁ、そろそろビンゴを始めるよ。注目、注目」と叫んでいます。 集まったみんなは、ワイワイ話しながら自分のカードを持って、何番の数字が出るか見守っています。 「それでは 最初の番号だよ。はい、35番」と シャロムさん。すると 「ビンゴしたぞ」とカスじいさんが立ち上がりました。 「こらこら、まだ一つしか言っていないじゃあないか」と、シャロムさん。 スゴちゃんが カスじいさんのカードを見て、 「だめだぁ、みんな穴あけちまって何番だかわかんないよ」とあきれています。 どうやらビールを飲みすぎて、酔っ払ってしまったようですね。 隣でバニ婆さんが 「おお、このじいさまに、たたりあれ」と言い出しました。 「なんだ、たたりだぁ? そんなもんこわくなんかねえぞ」いやはや困ったものです。 「はいはい、カスじいさんはおいておいて、次の番号だよ、えーっと 55番だよ」とこうして、どんどん数字が出てきました。 しばらくすると 「やったぁー ビンゴしたよ」とケン吉くん。 そして次々にビンゴしていくのでした。ユパくんもユキちゃんも まだみたいですが、リーチはしたようですね。ヤッコちゃんが、 「ユキちゃん 18番が出るとビンゴになるのよ」と教えたとたん、 「はい 次の番号は、18番だよ」と、シャロムさん。 「あっビンゴだ」とヤッコちゃん。 「ユキちゃん手を上げて、ビンゴだよ。やったね」 「何 ユキがビンゴしたかぁ。よしよし、おーい タゴじっちゃん、ユキがビンゴしたぞ。ユキだぞ、わかっとるかぁ」と知らせます。 「わかっとるわい、しつこいのぅ。そんなに念を押すとバレちまう」とブツブツと文句を言いながら、小さな四角な箱にラッキーセブン と書いたシールをあわてて貼り付けています。 それを見ていたケン吉くんが、 「タゴじいさん、なにしとるん」と尋ねます。すると、 「気にしない、気にしない、お前はあっちで、から揚げ食べておれ」と言いながら、 「ユキちゃん、ほら これが当たったぞ。今 そっちに持って行ってやるからのぅ」とユキちゃんの所へ来ました。 「小さいがいい物じゃよ、よかったのぅ」とユキちゃんの手に持たせてくれました。 シャロムさんが次の番号を言うと、今度はユパくんが手を上げて、 「はい ボク ビンゴです」と言いました。 「おお ユパか、よしよし、タゴじっちゃんユパじゃよ、今度はユパのやつだぞ」と言います。 「ほいほい 長靴の包みは どれだぁ」 と タゴじいさんが 忙しそうに、プレゼントに8番のシールを貼りました。 「なんか、おっかしいなぁ」と またまたケン吉くんが顔を出して言いました。 「なんじゃ まだそんな所にいたのか あっちに行っておれっちゅうに」とタゴじいさん。 とにかく、なんとか無事にゲームも終わり、サンタ役のタゴじいさんとシャロムさんが疲れてカウンターに座り込んでいると、 れん先生とのんちゃんママが、 「はい、いけないサンタさん達、お疲れ様。ご褒美のとっておきのシャンパンをどうぞ」と、ニコニコしながら二人にグラスを手渡して、 「とってもいいクリスマスイブになりましたね、特にユパくんとユキちゃんにはね」と、うれしそうに言いました。 「なんだ、わかっちまったのかいなぁ」と、タゴじいさん。 「あら、なんの事かしら」と、れん先生はとぼけていますね。 あっちこっちで、みんなプレゼントをうれしそうに抱えて、友達と楽しそうに話したり、歌ったりしています。 おやおや、カスじいさんはすっかり酔ってしまったようですね。気持ちよさそうに、眠りこけています。 こちらではバニ婆さんが トランプ占いを始めたようです。 カフェ アプリコットの外では、チラチラと雪がふりだしています。 メリークリスマス。皆さんに神の祝福がありますように・・・
3 クリスマスパーティー ---おしまい---
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引越し その1 ここは、二匹の川沿いの家です。夕べはおそくまで遊んでいたのでまだ起きてこないみたいです。 テーブルの上にはプレゼントが二つそのままで置いてあります。 そして、おやおや バスケットには チキン サラダ パン ケーキやサイダーまで乗っていますね。 きっと、お土産に貰ってきたのでしょうね。でも、そろそろ起きないと外はすっかり明るくなっています。 おやぁ、ユキちゃんがモゾモゾと動き出しました。そして手探りでドアをひらいて外に出て行きます。 たぶん トイレに行くのでしょう。サァーッっと冷たい空気が、部屋の中に入って来たので今度はユパくんが、 「フワァー」っと、あくびをしながら起きます。あたりをキョロキョロしてみてから、すっかり寝坊してしまったことに気がついたようです。あわてて飛び起きて、お布団をかたずけました。 その時、ユキちゃんが戻って来て、 「あっ、おにいちゃん起きたの お早う」と、眠そうに言いました。 「いやぁー、すっかり寝坊しちゃったね。朝ご飯は 昨日貰ってきたのを食べようね」と、笑いながら言います。 「うん、とってもおいしかったねぇ。サラダをおかわりしちゃったぁ」と、うれしそうにユキちゃん。 「そうそう、プレゼントをまだ開けていなかったなぁ、なんだろうね」と、ユパくんがプレゼントを開けようとテーブルに近づいて行こうとすると、 「おにいちゃん、お引越しの準備をしてから ゆっくりと開けない? そうしようよ」 「うん、そうだね。せっかく開けてもまたすぐにかたずけるなら、楽しみは後回しと言うことにしようね」と、ユパくんは残念そう。 こうして、ちょっと遅い朝ご飯を食べている頃、新しい家の方では二日酔いにもかかわらず、何人かの人たちが集まり初めていたのをユパくんもユキちゃんもまったく知らなかったのです。夕べ 降り出した雪が、まだあちこちの日陰に積もっている道を二匹がやってくるのは、もう少し後のようです。この人達は、この家でいったい何をするつもりなのでしょうか。 集まっているのは、タゴじいさん、シャロムさん、スゴちゃん、巫女さんのミミンさん、パンちゃん、ダイちゃんのようです。 「この家は、ずぅーっと物置にしてたから、あまり汚れていないよ」と、シャロムさん。 「物置だから、お守りとか破魔矢とかの材料が、こんなに置いてあるんだぁ」と、スゴちゃん。 「それにしても、他の人たちはどうしたのかな?」と、パンちゃん。 「たぶん忙しいんだよ、年末だからさぁ」と、ダイちゃん。 「とにかく掃除をして、ここに置いてある品物を社務所に持って行けば、いいんじゃろぅ。すぐに終わるじゃろう」と、タゴじいさん。 すると、巫女さんのミミンさんが、 「私とダイちゃんは、ここを掃除して窓や床を拭きましょうね」と、バケツに水を入れてきて言いました。 「とにかく 外に出してしまおう」と、シャロムさん。 「じゃぁ、パンちゃん、カスじいさんの所から二段ベットを積んでくるか」と、スゴちゃん。 「しかし、あのケチンボのカスじいさんが、よくベットをくれるって言ったね」と、パンちゃん。 「あのね、なんでもビールを買って福引をしたら、二段ベットが当たったんですって」と、巫女さんのミミンさん。 「まぁそのおかげで、ユパ達にベットが転がりこんだってことだしね。それに、カスじいさんはさぁ、一人暮らしだから、そんなにベッドいらないもんね」と、ダイちゃん。 ワイワイ騒ぎながら、みんなはそれぞれの仕事をやり始めたようです。さて、ユパくんとユキちゃんはと言いますと、やっと朝ご飯が終わり、引越しの荷造りをやり出したようですね。と言っても、家具もあまりないので、すぐに終わってしまい、新しい家を掃除しようという事でバケツと雑巾を準備しているところでした。すると誰かが、トントン と、ドアをノックしています。 「はぁーいと、ユパくんが開けると、そこにはスゴちゃんとパンちゃんが、ベッドを載せたリヤカーを引いて来ていたのでした。 「どうしたんですか、そのベッドはぁ」と、ユパくんが驚いて尋ねると、 「エヘヘ、まぁまぁ 歩きながら説明するからさぁ、とにかく一緒に行こうよ」と、パンちゃん。 「さぁ、ユキちゃんはここに乗っかって」と、スゴちゃんがリヤカーに乗せてくれました。 「バケツと雑巾もここに置いて、それから何か持って行けそうな物があれば、まだ乗せられるからないかい」と、スゴちゃんがニコニコとしています。 ユパくんとユキちゃんは、何がなんだかさっぱりわからずに、そのまま二人といっしょに新しい家に向かったのでした。ちょっと風が冷たいけど、二匹は話を聞いているうちに、そのベッドが自分たちの物であること、そしてもうすっかり引越しの準備が進んでいることを聞いて、寒いことなど忘れてしまったのでした。 「と、まぁこう言うことなんだぁ」と、パンちゃんがリヤカーを 引きながら言いました。 「だからね、今日のうちになんとか引越し終わっちまえばなぁ。暖かい家でお正月だろうって事で、暇な連中が集まっているってことだよ、あっははは」と、スゴちゃん。 「うわぁ、うれしいなぁ」と、毛糸の帽子をかぶったユキちゃんが、うれしそうにベットにしっかりつかまりながら喜んでいます。 ユパくんはリヤカーを後ろで押しながら、目をパチパチしています。 するとそれに気がついたスゴちゃんが、小さな声で 「皆、お前達の事、大好きなんだぜ。ただそれだけの事さ。だから気にするな。甘えていればいいんだよ」と、ユパくんの耳もとでささやきました。 ユパくんは黙ったまま、何度も何度も コクンコクンとうなずきます。 ちょうどカフェアプリコットの前を通った時、ドアが開いて、のんちゃんママがポットと紙コップを持って出てきました。 「あらぁ、ちょうどよかったわぁ。ちょっとちょっと、このポットを持って行ってちょうだい。紅茶が入っているのよ、お昼にみんなで 飲んでね。あたし仕事で行けそうもないの」と、言ってユキちゃんに渡して言いました。 「明日は、なんとか手伝いに行けるからね」と、ユキちゃんの帽子を撫でながら、ユパくんに 「お昼ご飯は、きっとじぶり亭から、おにぎりの差し入れがあると思うからね。うふふ」するとパンちゃんが、 「そりゃぁ早く行かないとなぁ。そろそろお昼だろぅ」と、慌ててリヤカーをウンショウンショっと引っぱりだしたので、スゴちゃんとユパくんがあやうく、コケそうになるは、ユキちゃんはポットをしっかりつかんだままベットの足にしがみつくわで、キャァーキャァー騒ぎながら新しい家に着きました。 |
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引越し その2 ちょうど さおりんさんが、差し入れのおにぎりを山ほど持ってきたばかりで、一休みしているところです。 「とにかく昼飯にしようぜ」とスゴちゃんが言うので、荷物はそのままにして皆と一緒にお昼を食べることにしました。 ミミンさんがユキちゃんの手を取って、タオルで手を拭いてくれています。 ユパくんは一人一人に、お礼を言っています。 するとシャロムさんが、 「ほらほら、そんな事はいいから 早くおにぎりを食べなさい。うんうん」と、ニコニコして言いました。 「それより、ここはちょっと日陰で寒くない?」と、さおりんさん。 「いえいえ、夏は涼しいわよ。冬は暖炉もあるしね。それほど寒くないのよ。いつもここでお正月のお守りや破魔矢を作っていたんだもん」と ミミンさんが笑っています。 「それじゃぁ、ボク達がここに住んでしまったら、どこで作るのですか?」と、ユパくん。 「心配いらんよ 新しく神社に物置を作ったからな わっはっは」と、シャロムさん。 「ボロ儲けしたからなぁ」と、パンちゃん。 「こらこら、いいかげんな事を言ってはいかんよ。お賽銭をちゃんと使わずに、貯めておいたのがあったんだよ。それで小屋を作ったんじゃよ。」と、得意げにシャロムさん。 「ふふふ、ほんとはね、神社の収支の金額が合わなかったんだよ」と、ダイちゃん。 「さぁさぁ お昼 お昼だよ」と、シャロムさんが急に大きな声でそれをさえぎりながら言いました。 「まぁ なんだかんだと言いながら、ユキ達が夏は涼しく、冬は暖かい家に住めるようになったのと、ユパに仕事が出来た事で、よしと言うことじゃぁのぅ」と、タゴじいさんが大笑いしました。 さて、差し入れのおにぎりを食べ終わってから皆でリヤカーのベットやいろいろな荷物を降ろしてから、スゴちゃんが 「さぁて、今度はおいらの家にある机を持って来ようぜ」と、言いました。 「え?机をどうするんですか」と、ユパくん。 「もちろんユキちゃんの勉強机だよ。それにおまえの作業台にもなるぜ。なんたってデカイ机があるんだからな。しかも使っていないんだ」と、スゴちゃん。 「貰ってもいいのかなぁ」と、ユパくん。すると、 「いらないなら、おいらが貰っちまうけど、いいかい?」と、パンちゃんが笑いながらリヤカーを引っ張り出しています。 「いえいえ、いただきます」と、ユパくんが走りながら言いました。するとミミンさんが、 「ユキちゃん お掃除しましょうね。ダイちゃんは窓拭いてね」と、ユキちゃんにピンクのエプロンを着せながら言いました。 「それにねユキちゃん、お掃除していれば、新しい家のことも早く覚えられるでしょ」と言いながら、ここがお風呂とかぁ、ここがトイレよとか教え始めました。ユキちゃんも 何度も何度も壁や扉を手で触りながら、楽しそうに雑巾できれいにしてゆきます。 「ユキちゃん、窓が大きいからお日様がいっぱい部屋の中に入ってくるよ。きっと暖かいよ。昼間は暖炉はいらないかもね」と、ダイちゃんが窓を拭きながら笑っています。その窓に突然、毛布のオバケみたいなのが ヌゥーっと現れたので 「ギャァー」っと言って、ダイちゃんがころげ落ちそうになりました。 「あはは、どうだぁ 驚いたかぁ」と、これはいたずら坊主のケン吉くんです。 「あぁあぁ 驚いたぁ まったくぅコノヤロー」と、ダイちゃんがポカリっと、ケン吉クンの頭を叩きました。 「いてててっ ちょっとふざけただけじゃないかぁ」と、ケン吉くんが何かを抱えたまま、窓を開けながらあやまっています。 「あらぁ、なぁにそれ?」と、ミミンさんが覗きこみながら笑って言いました。 「ジュウタンだよ、社務所に敷いてあったやつでさぁ、まだそれほど痛んでいないから 持ってきてみたんだ」と、ケン吉くんは得意そうに言いました。 「ちょうどよかったわ。これから皆で、ベットを入れる所だったのよ。先に、そのジュウタンを敷いてしまいましょうね」と、ミミンさん。 皆で窓から入れて部屋に敷いてみると、ちょっと小さいみたい。でも、なんとかなりそうです。するとそこに、タゴじいさんとシャロムさんが蛍光灯を二つ抱えて入って来ました。 「ほほぅ いいジュウタンがあったのぅ」と、タゴじいさん。 「はて?どこかで見た覚えがあるなぁ このジュウタンはぁ」と、シャロムさん。 「あっ ケン吉くん、梯子を持ってきてちょうだい。シャロムさんが 蛍光灯を取り付けるのに必要だからね」と、ちょっと慌てて言うと 「ほいきた」と、逃げるように走って行ってしまいました。 「うーん、どこだったかなぁ?」と、まだ考えているシャロムさん。 皆もそそくさと、自分の仕事をやりだしました。 ミミンさんが何やらタゴじいさんに耳打ちしていきました。タゴじいさんは ふふんっと笑ってから、 「さぁさぁ、どうでもいいじゃろそんなこと。それより、この部屋とそっちの暖炉の部屋の蛍光灯を3時までに変えないと オヤツはないぞ」と、シャロムさんを引っ張って仕事をし始めました。 |
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引越し その3 新しい家で皆が掃除やら電気器具を取り付けている頃、リヤカーを引っ張っていたユパくんたちは、ようやく机を乗せて今までの家に着いたところです。 「残っているのは、あとどれくらいだい?」 と、パンちゃん。 「えぇーっと タンスと 洗濯機くらいかなぁ。あとは小さいものとか物干し竿くらいだよ。あっ!いけないユキちゃんの本棚もあるんだぁ」と、ユパくんが 言いました。 「とにかく 乗せられるだけ乗せてみようぜ」と、スゴちゃんが汗を拭きながら言います。 「この荷物を降ろしたら、3時のおやつかもね」と、パンちゃん。 「いやいや、おやつの前にこの家の荷物をだいたい運んでしまったほうが楽だよ」と、スゴちゃん。 「よぉっし じゃあどんどんやっつけようよ」と、皆は荷物を乗せ始めました。 こうしてリヤカーに乗せた荷物を ユパくんたちが運び始めた頃、新しい家ではほとんどお掃除も終わり、照明器具もすっかり新しくなったので、ミミンさんがユキちゃんに家の周りを手引きしながら案内しているのでした。 「ほら、ここに郵便ポストがあるのよ。手で触ってみて」と、ユキちゃんに触らせて確認させてくれています。 「でね、ここを回すとフタが開くからね」と、フタを 開けて教えています。 「あたし手紙とか新聞読めないから、ほとんどポストは使わないと思います」と、ユキちゃんが言いました。すると、 「あのね、点字図書館ってのがあってね、点字の本とか音声で録音した本を無料で貸してくれるんですって。そこに登録してみたらどうかな?」と、ミミンさん。 「へぇぇ、そういう図書館もあるのですか?」と、ユキちゃんが驚いて言いました。 「このあいだ、れん先生が言っていたわよ。たぶん、今ごろ電話していろいろと調べてくれているはずよ」と、ミミンさん。 「でも、私テープレコーダーを持っていないの」と、ユキちゃん。すると、 「あら!まだ昨日のプレゼント開けていないのね?」と、小声でミミンさんがつぶやきました。 「え!なんですか?」と、ユキちゃん。 「うぅん なんでもないのよ、独り言独り言よ」と、ミミンさん。 「でね、このポストの所から左へ歩いていくと」と、言いながら ユキちゃんの手を引きながら歩き出しました。 「ここでちょっと風が右から吹いてくるでしょ。この風を感じたら、そこが広い道路になったという事だからね。この右の角にあるのが、じぶり亭なのよ」 と、ミミンさん。 「はい、とても近いんですね。ちょうど33歩でした」と、ユキちゃん。 「それでね、ここを右に行くとカフェ アプリコットが左にあるのよ。こっちは行き止まりで神社ね。じゃあ、アプリコットまで行きましょうね」と、またトコトコと歩き始めました。 ミミンさんは自分の右肘をユキちゃんの左手で、しっかりとつかませながら歩きます。時々目標となる木や石など、ユキちゃんに触らせながら歩き続けます。 「はい ここが、カフェ アプリコットよ。どれくらいあった?」と、ミミンさん。 「ちょうど、300歩くらいです」と、ユキちゃん。すると遠くから、 「おーい」と声がしました。すると、 「あっ!おにいちゃんだぁ」とユキちゃんが嬉しそうに声のする方に顔を向けました。そこには山のように荷物を積んだリヤカーを引いてくるユパくんたちが、やってくるのでした。皆 汗をかきながらニコニコしていますね。 「あらあら、すごい荷物ね」と、ミミンさんが笑いながら言います。 「あと一回で終わりそうだよ」と、パンちゃんが言いながら、汗を拭いています。 「今度はユキちゃんも一緒に行こうね、まだちょこっとだけ大切な荷物があるんだ」と、ユパくんが言います。 「おいおい、お喋りはそのへんで そろそろ行こうよ」と、スゴちゃん。 そこで皆は、一緒になってリヤカーを押して、新しい家に向かいます。こうしてどんどん新しい家に引越しの荷物が運ばれてくると、何処にどれを置くか ユパくんはてんてこ舞いをしています。 「えぇーっと、本棚はこっちの部屋で、それからテーブルは暖炉のある部屋で」すると、 「おーい、この机はどこだぁ?」と、スゴちゃん。 「あっ それはこっちの部屋にお願いします。あれぇ どうしたのこのジュータンは?」と、ユパくん。 「あはは、それは内緒内緒じゃ」 と、タゴじいさんが笑っています。 「おーい、それより二段ベット 重ねないで別々にしたほうがいいんじゃあないかなぁ?部屋も広いしさぁ」と、スゴちゃんがベットを運びながら言いました。 「はい、じゃぁ そうしてください」と、ユパくん。 「さて、最後のリヤカー宅急便が出発するよ」と、パンちゃん。 「ユキちゃん、さぁ リヤカーに乗って乗って」と、ユパくんがユキちゃんを呼んで言いました。 「じゃぁ、こっちはちょっくら3時のおやつでも食べようか」と、シャロムさんが言い出しました。するとあわてて、パンちゃんが、 「ずるいずるい、すぐ帰ってくるからさぁ。ちょっと待っていてよ」と、勢いよくリヤカーを引っ張りだしました。 「ちゃんと待っているから、急がないでいいからねぇー」と、ミミンさんが見送っています。 こうしてリヤカーが最後の荷物を取りに、今までの家に着くと、そこに本物の宅急便の白猫トマトのレオくんが来ていたのでした。 |
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引越し その4 「ユパくん 宅急便だよ。おやぁ、引越しなのかい?」と、レオくんがトラックから降りながら言いました。 「はい、急に決まって今日から神社のそばに引越ししました」 「そうかい、それじゃぁ、今度からはそっちに行くとしよう」と、レオくんが大きな箱を降ろしながら言いました。 「その荷物は、なんですか?」と、ユパくんが尋ねると 「送り先は、じぶり亭一同と書いてあるよ。品物はどうやら毛布みたいだな」と、レオくん。 「あっ 知ってる知ってる。きっとフミシマさんだよ。おいらが働き始めたとき、やっぱり毛布送って来たよ。おめでとうございます。 頑張って仕事してねってことだよ」と、笑っています。 「とりあえず、サインしておくれ」と、レオくんは伝票を渡しながら言いました。 サインをしてからユパくんは、レオくんに新しい家の場所を詳しく教えています。 「ああ わかったわかった。じぶり亭の裏にある物置だろう。そうかぁ、あそこに引越ししたんだね」と、レオくん。 「そうなんです。これから最後の荷物を持っていく所だったんです」と、ユパくん。 「じゃぁ、頑張って」と、レオくんは車に乗りました。白猫トマトのレオくんを見送りながら、パンちゃんが、 「さぁ 早くやっつけちまおうぜ。おやつに遅れちまうからね」と、家の中に入って行きました。 ユキちゃんを降ろしながら、ユパくんが、 「もう、ほとんどなくなったけど、食器とか写真とか壊れやすい物が残っているだけですから、すぐに済みますよ」すると、ユキちゃんが、 「おにいちゃん、あの箱も持って行こうと思うの」と、言いました。 「え?だって、あの箱には杖とかホイッスルとか一人歩きする道具が入っているだけだよ。ユキちゃん、あの杖 使いたくないって言っていたじゃないかい?」と、ユパくんが驚いて言いました。すると、 「皆、私達のこと応援してくれているのに、私 今まで何も頑張ってこなかったのが判ったの。だから、明日から頑張って、一人歩きを 出来るように、歩き方や料理のやり方を覚えることにしたの」と、しっかりと話しました。ユパくんは、じっとユキちゃんを見て、 「わかった。じゃぁ、あの箱も持って行こうね。でも、あんまり無理しないで少しずつだよ」と、ユキちゃんのお耳を撫でながら、優しく言いました。 「うん!私、頑張る」と、ユキちゃんも顔をあげて言いました。でもちょっと、心細げです。そんな顔を見て、ユパくんが、 「大丈夫だよ。父さんと母さんが、お空で見守っていてくれるからね」と、そっとユキちゃんの耳元でささやきました。 「そうよね。あの杖は父さんが作ってくれたんだし、その杖に付いている鈴は、母さんが付けてくれたんですもんね。こわくなんかないもん」と、ユキちゃん。そんな話を聞いていたパンちゃんが、 「これかい?その箱ってのは」と、埃をはらいながら持ってきました。 「そうそう、それだよ。開けてみようか」と、ユパくんが言いました。 「いやいや、新しい家で今夜ゆっくり開けて見た方がいいよ。それに寒くなって来たから、早く持っていこう」と、パンちゃん。 そうして、最後の荷物を載せ終わると、住み慣れた家にユパくんが、しっかりと鍵をかけました。 「さぁ、これでこの家ともお別れだよ」 「でも、時々遊びに来てもいいでしょ」と、ユキちゃんが鼻をすすりながら言いました。 「うん、そうだね。時々そうしようね」と、ユパくんもしんみりと答えました。 「じゃぁ 行くよ」と、パンちゃんがユキちゃんをリヤカーに乗せながら言いました。 こうして箱をしっかりと抱いたユキちゃんを乗せたリヤカーをパンちゃんが引っ張り、ユパくんが後ろから一生懸命押して行く。 それを見送るのは、ちょっと寂しそうにたたずんでいる今まで住んでいた古い家と、川のせせらぎだけのようですね。 でも、この出発はきっと新しい始まりになるのでしょう。 ちょうど、じぶり亭の横を曲がった所でユパくんが言いました。 「パンちゃん、悪いけど先に行っていてくれるかい?ちょっとじぶり亭のきくちゃんに、相談があるんだ」すると、パンちゃんが、 「ああ もうすぐそこだから大丈夫だよ」と、リヤカーを 引っ張りながら言いました。 そして、ユパくんは、じぶり亭の中に入っていきました。 新しい家では、皆が一休みしていたのですが、最後の荷物が来たので、手分けをして「ヨイコラ、ヨイコラ」と、荷物を運んでしまいました。 「よっし、これでなんとかかたずいたのぅ」と、タゴじいさんが汗を拭き拭き言うと、 「けっこう荷物があったな」と、シャロムさんが座り込んで言いました。ミミンさんが、皆にカフェ アプリコットから差し入れしてもらった紅茶を入れています。 「おお、やっぱりアプリコットの紅茶は、うまいなぁ」と、スゴちゃん。パンちゃんが、お昼のおにぎりが残ってたので、モグモグ食べていると、 「よく食うなぁ、だからふとるんだよ」と、ダイちゃんが笑って言いました。そこにユパくんが帰ってきて、 「皆さん、今日は私達の引越しをしていただいて、ほんとうにありがとうございました。お陰で、今夜から暖かい家で暮らせます」と、お礼を言いながら、ペコリとお辞儀をしました。ユキちゃんも一緒にペコリと、お辞儀をしています。 「まぁまぁいいじゃぁないか、これからお前達が頑張ることで、わしらは楽しいし、うれしいんじゃよ」と、タゴじいさん。 「そうそう、ユパくん 来年から頼むよ」と、シャロムさん。 「はい、よろしくお願いします。それから帰りに肉まんとアンマンを持って行ってください。もうすぐ、じぶり亭から届きますから、引越しソバの代わりなんです」と、ユパくんが言うと、 「おい、パンちゃん おにぎり食べているどころじゃぁないよ。お土産まであるってよ」と、ダイちゃんが笑いながら言うと、 「なぁに、まだまだ食べられるよ。なんせよく働いたからさ」と、パンちゃん。 「そのくらい、うちの畑仕事も頑張ってくれるといいんだがなぁ」と、シャロムさんが呆れたように言うと、皆が笑い出しました。 そうして一休みしているところに、じぶり亭のきくちゃんとさおりんが、肉まんとアンマンを包んだ箱を抱えてやって来ました。 「ほぉーい、お待ちどおさん」と、元気にさおりんさん。 「とっても、おいしいお土産でふ」と、きくちゃんが言いながら、皆に手渡しています。その時、あっちこっちと覗きまくっていたケン吉くんが、 「あれぇ、この包みは夕べのビンゴの商品じゃないか?まだ開けていないのかい」と、言いながら持って来てしまいました。 「どれどれ、開けてみてごらんよ」と、パンちゃん。 「うん、開けてみようか。ユキちゃんこっちにおいで」と、ユパくんがユキちゃんを連れてきました。そして小さい箱をユキちゃんが、 大きい箱をユパくんが開けました。 「あらぁ、これっテープレコーダーだわぁ」と、ユキちゃんが飛び上がって喜んでいます。 「あっ!ボクのは長靴とサッカーシューズだぁ。こんなやつ欲しかったんだ」と、こちらも大喜びです。 「あれぇ?これさぁ、おいらが買ってもらったシューズとお揃いじゃ、モゴモゴ」と、ケン吉くんが言うのを慌ててシャロムさんが口をふさぎながら、 「アハハ アハハ よかったなぁ」と、言いました。 「しょうがねぇなぁ、なにも同じのを買うこたぁ、ねえだろがぁ」と、タゴじいさんがブツブツ言うと、 「タゴじい。ちゃんと電池くらいは入れてやったんだろなぁ?」と、シャロムさん。 「アホぬかせ。あれはのぅ、ハンドルをクルクル回せばたっぷり2時間は録音できるやつじゃい。だから電池なんぞいらんわい」と、その二人のやりとりを聞いて、ユパくんは今までの事がすべてわかったのでした。そしてそっと二人に、 「ありがとうございました」と、小声でお礼を言いました。ユキちゃんが、 「なぁに?おにいちゃん」と、聞くのを 「いやいや、なんでもないよ。ほほぅ、よかったのぅ」と、タゴじいさんが目を細めて、ユキちゃんの頭を撫でながら、ふと見上げた空には夕焼けを待ちきれずに、気の早い一番星が駆け足でやってきて、またたきはじめるのでした。 |
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引越し その5 その夜、みんなが帰った家の中の暖かい暖炉の前のテーブルで、二匹がなにやら話をしていますね。ユパくんは、新しいサッカーシューズの紐を通しながら、テープレコーダーの説明書を読んでいます。それをユキちゃんが点字で書き取っています。 「えーっと、丸い印は再生ボタンで、四角い印が停止ボタンね」と、ユパくん。 「丸い印は、再生」ポツポツポポツ、ポポツポツ、ポツ、ポツポポツ、ポポツ、ポポツポポポツ、ポポツと、点筆でユキちゃんが、打ちます。そして、カチャカチャカタンと定規を一段下げました。 「四角い印は、停止と」ポポツポポツ、ポツポツ、ポポポツ、ポツ、ポポポポツ、ポポツ、ポポツポポツ、そこでまた定規を、カチャカチャカタンと下げます。 「はい、おにいちゃんいいわよ」 「えっと、二重丸が録音で、何もないのが一時停止ですだって」 「二重丸が、録音っと」 ポツポポポツ、ポポツ、ポポツポ、ポポポツ、ポツポツ、ポツポツポポポツ、ポポツポツ 「あらあ?おにいちゃん録音のやり方は、どうするの」と、ユキちゃんが聞きます。 「録音の時はねぇ、録音ボタンと再生ボタンをいっしょに押すって、書いてあるよ」と、ユパくん。 「録音と再生ボタンを一緒に」と、言いながら、また点字を書き出しました。その様子を見ながら、ユパくんが、 「明日から、近所の歩き方や学校までの行きかたを しっかりとやろうね」と、言いました。 ポツポツと点字を書きながら無言でユキちゃんが、コクンとうなずきます。 「大丈夫だよ、ゆっくりあせらずにやれば出来るからね」と、ユパくんがやさしく言いました。 「おにいちゃん、仕事はいつからやるの?」と、ユキちゃんが尋ねると、 「10日に、じぶり亭で新年会があるんだって、それが済んでから たぶん、11日からだよ」と、ユパくん。 「うわぁ!うれしいなぁ。また、オカカチャーハンが食べられるのかな」と、ユキちゃんがニコニコしながらうれしそうです。 「うん、ギョーザもシュウマイもあるって、それに、杏仁豆腐も出るらしいよ。ユキちゃん大好物だろぅ」と、サッカーシューズをしまいながら言いました。 「さぁ、お風呂に 入って来ようかな。もう今夜はこれくらいでいいかな」すると、ユキちゃんが、 「うん、あとテープの表と裏の見分け方を教えてね」と、言いながらテープレコーダーからテープを取り出しました。 「あのね、ほらここを触るとね、穴が真ん中にあるだろ?これが表で真ん中に穴がないのが、裏になるんだよ」と、言いながら そっと ユキちゃんの指を穴に触らせてくれました。 「あっ!ほんとだぁ。こっちには穴があるけど、こっちにはないわ。うんうん、これならばすぐに判るわぁ」と、ユキちゃんが何度も何度も確認しています。 そんな様子を見ながら、ユパくんはお風呂に行きました。ユキチャンは、楽しそうにテープレコーダーのハンドルを クルクル回しながら、録音ボタンを動かして自分の声を録音して遊んでいます。 窓の外では、またチラホラと雪がふりだしたようです。でも、新しい家では、暖かい暖炉と暖かいお風呂、そしてなによりも心優しい村のみんなのお陰で、二匹は暖かいお正月を迎えることが出来るようです。 ユキちゃんは、何を録音しているのでしょう?
4 引越し ---おしまい---
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