トップページみんなの広場長編小説 目次デュオの仮面騎士 目次>デュオの仮面騎士




長編小説 デュオの仮面騎士

文:カメ仙人



◆第一章 第十七話  カナンの市!◆



 猛烈な勢いで竜騎士の一団が駆け去った後、フェリオとダイアナは地面に横たえられている、女装をさせられたことも気づかず、眠り続ける少年を見つめた。こうやって見ると、さっき誰かに似ていると漠然と感じた印象がハッキリしてきた。上品な面立ち、整った鼻梁、形の良い唇……。

 「ライヤそっくりだ……」
 驚きと共に、つぶやきがフェリオの口から漏れた。全く知らないデスペラードの人間が、何故、こんなに愛しい人に似ているのだろう? 男女、年齢的なものは異なるが、本当にライヤに瓜二つな少年。彼は一体、何者なのだろう?

 「フェリオ、どうかしたの? さっきライヤって言ってたみたいだったけど。ライヤがどうかしたの?」
 食い入るように、眠れる少年を見つめるフェリオを訝しげにダイアナが問う。

 「この人、ライヤにソックリなんだ。でも、どうして……?」
 「あらあら、フェリオったら、ライヤ恋しさに、誰を見てもライヤに見えるようになっちゃったの? ホームシックかしら?」
 「ちっ、ちがうーっ! そんなんじゃない! 本当にライヤソックリなんだって!」
 顔を真っ赤に染めて怒鳴るが、ダイアナは笑うばかりで取り合ってくれない。

 「本当にソックリなんだってば!」
 意地になって叫ぶフェリオを無視し、ダイアナは眠れる森の美女を見つめる。こうして見ると、本当に少女のように見える。上品な顔立ちをした少年であった。あの騎士はカリム王子と呼んでいた。恐らく、デスペラード王家の若様なのであろう。詳しいことを聞かなくてはならない。それに、彼らがデスペラードの人間というのも気にかかる。もしかすると、取り逃がしたゲリオール・ウッズマンの手下が関っているかも知れない。

 「ねえ、この子を守っていた騎士は何処?」
 「えっ?」
 不意に尋ねられ、フェリオが慌てて周囲を見回す。だが、あの男の姿は見えない。大切な王子様を残し、何処かへ行ってしまったのだろうか? いや、そんなはずはない。もしかしたら、追っての様子を探りに行ったのかも知れない。

 「ミャーッ!」
 傍らに寝そべっていた、純白の猫が顔を上げた。フェリオもつられてそちらを見る。と、あの騎士だ。共に連れているエルフォンの背後には荷車が繋がれていた。どうやら瀕死の王子を運ぶための荷車を何処かで調達してきたらしい。

 「カリム様はご無事か?」
 近くまできて、立ち止まると、心配そうな表情で問う。ダイアナが黙ってうなずくと、安心したようにホッとため息をつく。

 「あなた達の追っ手は、うまく騙されてくれたようよ。さっき、全速力で駆け去って行ったわ」
 「そっ……そうですか……」
 安堵するかと思ったが、騎士の表情は暗い。

 「将軍……あなたの犠牲は決して無駄にはいたしません。騎士バランが王子様を命をかけてお守りいたします」
 騎士はそっと口の中で誓う。あの勇猛果敢な老将軍の死を決して無駄にしてはならぬ。王子を盛りたて、悪魔の支配からデスペラードを救う。それこそが、唯一できる供養だ。

 「カリム様をこのままここに寝かせておくことはできません。荷車を調達してきました。これで何処か安全な場所まで運びたいと思いますが……」
 遠慮がちにバランは提案する。月神シャラへの畏怖と、王子を今動かすことへの危惧が騎士を臆病にしていた。

 「そうね、重傷のけが人をこんな場所に寝かせておくことはできないわね。でも、何処か安全な場所に心当たりがあるの? あなた達、追われているんでしょう?」
 「それは……」
 問われて、バランは黙り込んだ。この国に安全な場所はない。デスペラード王に反逆したとされてしまったカリム王子だ。全てのデスペラード人が敵になったとしても不思議ではない。うっかり信用して、密告でもされたら、抗いようも無く捕らえられてしまう。例え月神シャラの加護があったとしても、数十人、数百人の兵に囲まれてしまえば……。

 「国を出るべきね。あなたの王子様は国王から狙われているんでしょう? だったら、国内にいたら危険だわ。どんなに巧妙に隠れたとしても、必ず嗅ぎ付けられてしまう。少なくとも、あなたの王子様が動けるようになるまでの二週間は……」
 「……」
 国外に脱出、それは考えないでもなかった。だが何処の国が反逆の王子を受け入れてくれるというのだ? 強大な力を誇るデスペラードの威光を傘に、周辺の国々に圧力をかけ、時には侵略をも繰り返してきた。そんな国の王子を喜んで迎えてくれる国があるとは思えない。

 「あなた、まさか王子様を国賓として受け入れてもらおうなんて考えているんじゃないでしょうね? そんなことをしたら、王子様はここにいますよって、敵に教えているようなものよ。身分を隠し、密かに潜伏することを考えなさい。それが亡国の王子様が安全に逃げ切れる最良の方法よ」
 「身分を隠して……」
 そんな方法があったのか。常に王家に仕え、公然と行動するのが当たり前だと思っていた。だから、王子を連れて国外に脱出すれば、当然、その国に王子の保護を申請しなければならないと信じていた。しかし、そんなことをせず、身分を隠して民衆の中に紛れ込む。そんなことさえも思いつかなかった。だが、騎士バランはともかく、王族のカリムに平民の中で暮らせるだろうか? 誇り高い王子が汚いボロを纏い、粗末な食事を我慢できるとは思えない。

 「何を悩んでいるのよ。たかだか数週間だけ国外に偲ぶだけのことじゃないの。王子様の傷が癒えれば、直ちに反撃開始よ。私たちも力を貸して上げる。さっさと決断しなさい!」
 月神シャラが不敵な笑みを浮かべる。なんて頼もしい助っ人が現れたのだろうか。あの獣神がデスペラードに現れた時は、この世に神はいないのだろうか、と神を呪った。だが、こうして天から現れた美しい月の女神を使わされた。バランの顔に希望の光が射す。この人なら悪魔に乗っ取られた故郷を取り戻してくれるに違いない。騎士は目の前の女神に深く頭を下げた。



 カナンにきて、すでに十日、仮面の騎士、レオナルド・フォレストは国賓並みの待遇で、岩城の一室を与えられていた。カナンの人々は、近づく戦に備え、慌しく行き来している。そんな騒ぎにはまるで興味がないとでも言うように、フォレストは下界が一望できる岩城の頂上でカナン国を遠望している。岩山をくり抜いた城を中心に、小さな村落が点在している。最も大きな町でも、住民の数は一千人には満たないであろう。恐らく全国民の数は数十万人。国と呼ぶにはいささか難があるような小国だ。こんなものを国と呼ぶとは、やはり、デュオはかなり地球とは比べ物にならないほど未発達な星なのだ。こんな星、あの男が本気になれば一たまりもないであろう。

 「フォレスト様」
 不意に何もない空間からささやき声がした。仮面の男は別に驚いた風もなく、近くの一点を凝視する。と、黒くモヤモヤした物が空間に現れ、やがて人の形を取る。異様に額の狭い、目玉のギョロリとした男が空中から現れた。そのまま平伏すれば、蝦蟇蛙ソックリだ。かつて、フェリオを誘拐し、鉱山で殺そうとした暗殺者、ありとあらゆるウッズマン家の闇の仕事をこなしてきたカメレオン男、ダストルであった。

 「ご報告いたします。デスペラードに現れたお父上の部下……」
 「あのような男を父と呼ぶな!」
 冷たい叱責が仮面の下から漏れた。ダストルは思わず身を縮める。それほど、フォレストの声音は冷淡で、感情のないものであった。

 「もっ、申し訳ありません」
 カエル面に冷や汗を浮かべ、ダストルが報告を続ける。

 「グレン・バズトールは、一日にして、デスペラードを手中にしてしまいました」
 「グレン・バズトールか……」
 会ったことはないが、噂は聞いたことがある。ゲリオール・ウッズマンの手下の中でも最悪の化け物だと言われている。奴の身体は徹底的に戦闘用に改造され、木星麻薬シンジケートでは誰も奴を殺すことはおろか、傷つけることさえできないだろうという。シンジケートの科学者、マイケル・シュタイン博士の最高傑作サイボーグだ。あのような化け物が相手では、科学力の遥かに劣るデュオの武器では、到底かなうはずもなかった。

 「奴は、獣神ゴーラと自らを称し、国王、デスロ三世を世界の王にしてやると唆して取り入ったようです。そして、近隣の国々を全て滅ぼすつもりのようです」
 「世界の王か……。おろかな王だ。そのような甘言に惑わされるとは」
 フォレストのエメラルド色の瞳が、嘲りの光を放つ。たかだか未開の惑星一つを与えてやると言われ、己の息子まで手にかける。王としても、親としても最低の男だ。まるで、あの男のようだ。家族など、己の野望のためなら、犠牲になろうと平気な、血も涙もない悪魔。

 「それで、最初のターゲットはカナンか?」
 「へえ、その通りで。奴ら、反逆者の王子がカナンに逃げ込んだとみて、先ずカナンを滅ぼすつもりのようで」
 さて、この男はどうするつもりだろう? 何の目的で砂漠を渡り、こんな辺境の小国にきたのか。これでハッキリと判るはずだ。ダストルは、ジッと黄金の仮面の下で輝くエメラルド色の瞳を見つめた。

 「では、早々にカナンを出国しよう」
 「はあ……」
 一瞬、耳を疑うカエル男であった。もしかしたら、ゲリオールの刺客を倒すため、何かの行動を起すのではないかと疑ったのだが、何もせずに逃げ出そうと言う。この男の考えが全く読めない。もしかしたら、何も考えていない? そんな男のために、苦労して砂漠を渡ってきた自分は何なのだろう? こんな男、見限って、ゲリオールの元に戻った方が賢明な選択なのかも知れない。

 「何者?!」
 不意に、フォレストが厳しい眼光で背後を振り返った。驚いてピョンと飛び上がるカエル男を無視し、仮面の男はつかつかと階段の傍の柱へと近づいて行った。すると、オズオズと小さな影が姿を現わす。それは一見、少年のように見えた。だが、少年ではない。小姓の服装に身を包んだ少女、サリヤであった。彼女は思いつめたような瞳で仮面の男を見上げる。なんという切なくなるような眼差しであろうか。ダストルは思わず、己が主を見た。しかし、仮面の下のエメラルドの宝玉は何の感情も表さない。

 「これはサリヤ姫、こんな場所で何を、なされておられるのですかな? まるで、下世話な下々の女のように、他人の話を盗み聞きなされるのがご趣味とか?」
 「ぶっ、無礼な! 私はただ……」
 あまりにも慇懃無礼な男の言い草に、カナンの姫が激昂した。確かに、フォレストの動向が気になり、密かに後をつけていた。だが、それを面と向かって指摘されると、無性に腹が立った。

 「ただ? 偶然、柱の影に隠れていたら、私共の話を聞いたと?」
 「そっ……それは……」
 あまりにもあけすけな言いぐさに、姫は絶句してしまった。何故、こんな男に嘲りにも近い言葉を投げられなくてはならない? 口惜しさでサリヤの表情が青ざめた。だが、当の本人は更に言葉を続けるでもなく、姫の脇を通り抜けようとした。

 「フォレスト!」
 去ろうとしている男の背に向かって、サリヤは悲鳴のような声で叫んだ。それはサリヤ自信にも信じられないような悲痛な声音であった。何故、こんな声しか出ない? あまりにも惨めったらしくて、唇をギュッと噛む。

 「……」
 黄金の仮面がキラリと光る。振り向いてくれた。その事実が、何故かサリヤを安心させた。このまま行かせたくない。なんとしても、この男をカナンに引き留めたい。狂おしいほどの熱情が少女の胸を熱くさせる。

 「去ることは許しません。フォレスト、そなたは私を守らなくてはなりません」
 「何故?」
 静かな声が問う。少女の瞳が困惑に宙を彷徨った。何故、そんなことを言ったのだろう? 自分自身でも理解できずにいた。

 「そなたは、私の竜覇の儀式を見届けた証人だ。証人として、私の行く末を見守る義務がある」
 「義務?」
 エメラルド色の瞳が少女のルビー色の瞳を見つめる。サリヤは思わず頬を紅潮させ、うつむいてしまった。証人の義務とは、全くの言いがかりである。竜覇の儀式そのものが父王によって無視された今、証人の意味も義務もないに等しい。それは、よそ者のフォレストにも理解されているはずだ。だが、そんな言いがかりを押しつけてでも、引き留めたかった。何故、こんな気持ちになるのか彼女自身でも判らない。ただ、側にいて欲しいのだ。

 「それならば、仕方がない。留まるとしよう」
 「だっ、旦那! なんで?!」
 黙って聞いていたカエル男、ダストルが絶叫する。たった今、カナンを去ると言ったばかりなのに、その舌の根が乾かぬ間に、留まると言う。本当に何を考えているのだ? ゲリオール・ウッズマンの部下、グレン・バズトールが隣国デスペラードを支配し、カナンを攻撃しようとしている今、直ちに出国すべき時なのに、どうして? この人はやはり、何かを企んでいる? ダストルはギョロリとしたカエル眼で仮面の主人を見つめる。だが、黄金に輝く仮面からは何も探ることはできなかった。



 岩城から忍び出たカエル男、ダストルは、城下町を保護色に包まれた身体で動き回っていた。人々は隣国が今にも攻めてくることも知らぬげに、のんびりと往来を行き来している。広場では、色々な商人たちが各勝手に売り物を並べ、商っていた。果物や肉、布や装飾品を売っている者たちもいる。砂漠の向こうのデュオ人たちは、小さな集落を作り、各が必要な物を物々交換しているだけの原始的な生活水準であったのだが、ここでは既に市が開かれ、貨幣なども使われているようである。

 「うん?」
 ふと目に見えないカエル男の目玉がギョロリと光った。筵を細い棒で支えた簡単な屋根の下で果物を売っている商人から果物をいくつか買っている少年の後ろ姿が気にかかったのである。年の頃は十五、六歳、他のデュオ人に比べ、いささか色白な手足。何気なく振り向いた顔を見て、ダストルは思わずギョッと目を剥いた。普通のデュオ人とは異なる、エメラルド色の瞳をした少年であった。

 「げっ、あいつ……」
 まさか、あの少年? 伝説の英雄、デュオの青い虹を名乗り、デュオ大使、アスラン・ウッズマンを追いつめた、ダストルとは縁の深い少年、フェリオであった。だが、何故こんなところにいる? 奪還した幼なじみの少女と共に、神都アルカディアにいたのではないのか? やっとの思いで砂漠を越えてきたのは、あいつらとの関わりを絶つ意味もあったのに、また邪魔をするつもりか。カエル男は憎しみのこもった目で相手をにらみつける。



第一章 第十七話  カナンの市! ---了---



PAGETOP


◆第一章 第十八話  運命との遭遇!◆



 フェリオは、宿敵とも言える、カエル男、ダストルに尾行されていることにまるで気づかぬ体で、市を離れ、城壁の内側へと入って行く。第一の城壁の内側は上級商人と下級兵士の居住地区になっており、岩城の基に当てられていた。そんな岩壁をくり抜いて作られた邸宅の間を抜け、一つの小じんまりとした玄関の中へと入って行く。

 「ただいま」
 奥に向かって声をかける。と、ゴソゴソと中から逞しい身体の若い騎士がでてきた。

 「新鮮な果物があったから、買ってきたよ」
 「それはありがたい! カリム様は果物が好物であられる。きっと、お喜びになられるだろう」

 騎士は嬉しそうに果物の入った袋を受け取ると、奥へ入って行く。少年も後に続いて入ろうとした。が、不意に動きが止まり、後ずさってくる。一体、何が? 訝るカエル男の瞳が更に大きくなった。奥から出てきたのは、背の高い少女であった。あの顔はまさか……。善神アルディオンの神子、ライヤ? いや、違う。よく似てはいるが、ライヤではない。ライヤよりも大人びているし、背の高さが違う。彼女はフェリオよりも小柄な少女だった。しかし、今目の前にいる少女は、明らかに少年よりも大きいし、身体も華奢ではない。よく似てはいるが別人だ。

 「フェリオ、何かデスペラードの情報は耳に入らなかったか? 国王や王后がどうなったか噂にはなってはいなかったか?」
 まるで男のような口のききかただ。それに、少女にしては声の質が低すぎる。せっかくの美貌なのに、惜しいと、ダストルは内心思っていた。

 「どうも、カナンの人たちはデスペラードのことは何も知らないみたいだ。誰に聞いても、そんな遠くの国のこと知るもんかって言われたよ」
 「遠くの国……カナンとデスペラードは隣同士の国なんだけどなあ……」
 少女は苦笑いしてうなずく。そして、再び奥へと消えて行った。

 「うむ……よく判らんな……。あの娘は何なんだ? それに、カナンにいて、隣国のことをしきりに知りたがるのは何故だ?」
 ダストルは暫く考えをまとめるように奥への入り口を見つめていた。しかし、そうしていても何も始まらないと、忍び足で近づいて行った。もうすぐ入り口だと、止めていた息を吐こうとして、思わず硬直する。中から何かが飛び出してきたのだ。慌てて避けようとした足に、何かがすり抜けて行った。ギクリと心臓が跳ね上がる。

 「おいっ、ユキ、どうしたんだよ?」
 続いてフェリオが飛び出してくる。このままでは、少年に体当たりされてしまう。
ダストルは音もなく跳躍し、天井に張り付く。そこへ光の矢が走った。

 「なっ?!」
 驚いて避けるが、第二の攻撃が襲ってくる。一体誰が? 光の矢が飛来してきた方向を素早く確認する。猫だ。雪のように真っ白な猫の両眼からレーザー光が発射されていた。

 「馬鹿な! サイボーグ猫か? いや、違う、生命反応がない。ロボットだ。しかし、なんでこんな未発展途上の星にロボットがいる?」
 ダストルは混乱した頭で懸命に猫の攻撃を避けた。飛び退いた後に、レーザーで岩が溶ける。かなり強力なレーザー光線だ。もしも、直撃を受ければ、改造人間のダストルといえど、ただでは済まない。

 「くっそっ! 今日のところは一旦逃げるしかないぜ」
 あの少年が何故、カナンにいるのかを知りたかったが、今、あの猫と戦うのは得策ではない。ダストルは素早く玄関から飛び出し、城壁を越えて逃げ去って行った。

 「ユキ、どうしたんだよ? 何かいたのか?」
 「ミャーッ!」
 今にも外に駆けだして行こうとするユキをフェリオが心配そうに見つめる。普通の少年であるフェリオには、身体を保護色に変化させて忍んでいたダストルの姿は見えない。ユキが、ただ滅多やたらとレーザーを放っているようにしか見えなかったのだ。

 「ユキ、もう大丈夫よ。あいつは行ったわ」
 奥から出てきたプラチナブロンドの美女が優しくユキの頭を撫でる。と、安心したのか、背を丸めて座り込んだ。

 「ダイアナさん?」
 「あなた、尾行されてたみたいね。ユキの耳が、それを察知して攻撃したのよ」
 「えっ? 尾行されてた?」
 サッと少年の顔色が変わる。そんなこと、全然気づかなかった。なんてドジなんだろう。猫だって気づいたのに、自分は気づかなかった。

 「うー……オレって猫以下かよ……」
 頭を抱えて唸る。大切な使命を持って、砂漠を越えてきたのに、目的地に行くどころか、こんなところで時間を無駄にしている。おまけに、足手まといだ。自己嫌悪に陥るフェリオであった。そんな少年を慰めるようにユキが足に頭をすり寄せてくる。色んなことができる不思議な猫。力強い味方だ。でも、可愛い。ソッと抱き上げ、頭を撫でてやった。

 「フェリオ、何をしてるの? 早く用意をしなさい!」
 「えっ? 用意って?」
 「敵に見つかったのよ、早くここから脱出しないと危険なの!」
 「あっ、そうか!」
 奥に入り込むと、皆はすでに出発の準備をしていた。フェリオも自分の荷物を手に取る。やっと見つけた隠れ家だったのに、もう逃げ出さなくてはならない。

 「今度は何処に?」
 「デスペラードに行くわよ」
 「えっ?」
 意外な言葉に一同が目を見張る。騎士バランも女装した王子、カリムも動きを止めて、プラチナブロンドの美しい女性を見つめる。ダイアナのエメラルド色の瞳が楽しそうに輝いていた。

 「カリムの傷も、予想以上に回復が早かったし、あいつのことも気になる。もう隠れている必要はないでしょう?」
 「やっと、この忌々しい格好から解放されるんだな」
 カリムが、さも嫌らしい物でもあつかっているかのように、人差し指と親指で女物の衣装を摘む。いくら敵の目を誤魔化すためだとはいえ、女装をさせられているのだ、王子としては、耐えられない屈辱であった。

 「あらっ、そんなに嫌がることはないのに。とっても似合ってるわよ、お姫様。フェリオもそう思うでしょう?」
 「うっ、うん!」
 思わずうなずくフェリオ。愛しいライヤにソックリな少年の姿が眩しくて仕方がない。

 「あ・の・な・あーっ!」
 だが、カリムは真っ赤になって反論する。騎士バランは、なんと言ったらよいのか判らずオロオロしていた。女装が似合うとはとても言えない。だからと言って、そんな姿はみっともないとも言えない。王子が自分に何か尋ねてきたら、どう答えたらいいのか、そればかりを恐れていた。

 「まあ、カナンを出るまでは我慢してね。いくらここが敵国だと言ってもデスペラード王子の顔を知っている者もいるかも知れないから。それに、私、女装の似合う男の子って好きよ」
 「うー……頭が痛くなってきた……」
 ひたすら頭を抱えるカリムであった。



 早々に支度を済ませたフェリオたち一行は、そそくさと通りを抜け、第一城壁に向かって歩き出した。あまり急いで怪しまれてはいけない。焦る気持ちを抑えつつ、何気な風を装い、城門へと近づく。ダイアナは異相を気づかれないように髪の色を染め、エメラルド色の瞳を気づかれないよう、顔を伏せていた。カリムは、相変わらず女装をさせられムッとした表情を隠そうとはしない。騎士バランも、三人から少し離れ、デスペラードの武装を隠し、無関係な傭兵のように振る舞っていた。

 「あっ!」
 不意に、カリムの足が何かに躓いた。思わずワッと倒れそうになるのを、危うくフェリオにしがみついてこらえる。慣れない女用のサンダルのため、足下が危ういところに、いきなり何かがぶっつかってきたのだ。

 「だっ、大丈夫?」
 ライヤそっくりの相手に抱きつかれ、思わず顔を赤らめるフェリオ。相手はライヤじゃない。それに、女の子でもない。それは判っている。でも、意識してしまう。まるでライヤが傍にいるようだ。

 「すまぬ。何かが足に……」
 言いわけしようとした口が戸惑いに固まる。躓いたのは他人の足だったのだ。それも、太く、無骨な男の足。持ち主の方へ視線を移し、カリムは眉を顰めた。無骨な足に似合った、品性の全く感じさせない男の髭面がそこにあった。恐らくは雇い主のない傭兵であろう。そのアルコールで黄色くなった目がニヤリと細められた。

 「行こう」
 カリムはムッと視線を逸らし、フェリオをうながす。あのような無頼漢など相手にはしないと、無言で語っていた。

 「待ちな!」
 が、その背に雷鳴のような声が追いかけてきた。次いで、三人の目の前に一目で傭兵と思しき男たちが立ちはだかる。どうやら、先ほどの傭兵の仲間であろう。女二人に、まだ年端の行かない少年の三人連れ、格好の鴨だと踏んで因縁をつけようと言うのだ。

 「退きなさい。邪魔よ!」
 静かだが、押し殺した怒りを感じさせる声でダイアナが命令する。だが、たかが女と侮った傭兵たちは、ニヤニヤと笑みを浮かべて近づいてきた。サッと身構えるフェリオ。ダイアナは婉然と笑みを浮かべた。彼らなど敵ではない。細腕一つで倒すことは可能であった。

 「お待ちなさい! 我が城下で争うことは許しません!」
 今にも飛びかかろうとしていた男たちの足下に、長槍が突き刺さる。ワッと飛び下がる傭兵たち。ダイアナは、ハッと視線を上げる。と、エルフォンに騎乗した少年の姿が目に飛び込んでくる。

 「なんじゃ、小僧! 邪魔する気か?! 邪魔する気なら、ただじゃ済まさんぞ!」
 せっかくの獲物を目の前にして、邪魔された男たちが怒りに剣を抜刀した。たかだか、ほんの一四、五才の少年に脅されて、引っ込むわけには行かないのだ。

 「貴様ら、カナンの姫に無礼を働く気か?」
 横から竜騎士の一団が近づいてくる。その先頭の男が大剣を真っ直ぐに男たちに向け、厳しい眼光でにらんでいた。一目で分かる、竜騎士隊だ。正面の騎士は、カナンでは泣く子も黙る、ボルクス、竜騎士隊長であった。その彼が姫と呼ぶのは……誰のことだ? 思わずダイアナとカリムを交互に見つめる。

 「ボルクス、こやつらを捕らえよ! 無辜の民に因縁をつけようとする馬鹿者共だ!」
 竜上の少年が命令を発した。このエルフォンにまたがった少年がカナンの姫なのだと、全員が、驚きと共に悟った。

 「へっ、この小僧が姫様……?」
 傭兵の一人が叫んだ。男たちも、フェリオたちも呆然と竜上の少年、いや少女を見つめた。言われてみれば、少年にしては線が細い。だが、どう見ても少年にしか見えない凛々しさだ。間違えたとしても、誰も責められないであろう。

 「この! 姫様を小僧だなどと、無礼者!」
 だが、サリヤを実の娘のように守り育ててきたボルクスには、許されない暴言であった。顔を真っ赤にし、男たちに迫る。傭兵たちは、捕まってなるものかと、一目散に逃げ出した。

 「待て! 待て! 待たぬかーっ!」
 竜騎士の一団が男たちを追いかけて行く。それを半ば呆然と四人は見つめていた。やがて、視線をエルフォン上の少女に向ける。男と間違えたとは言え、決して醜い少女ではない。むしろ、それなりに着飾らせれば、かなりの美少女と言える容貌の少女だ。

 「どうもありがとうございました、姫様。お蔭で命拾いをいたしました」
 ダイアナが深々と頭を下げる。フェリオも慌てて、それに続いた。カリムは放心したように、サリヤの顔を見つめている。これがカナンの姫か。もしも、あの化け物が現れず、父王の目論見が成功していたならば、一緒になっていたかも知れぬ娘。なんという運命の巡り合わせであろう。今の自軍は放浪の王子。決して絡み合うことのない運命の糸車の悪戯が二人を会わせたとしか思えない。

 「何か?」
 一心に自分を見つめる娘を訝しげに見下ろす。下賎の娘が自分を羨んで見つめているのとは異なる、奇妙な視線。一体、何があるのであろうか? 

 「ちょっと、そんなにジロジロと見つめたらだめだよ!」
 フェリオが慌てて、カリムの袖を引く。ここで、何か問題を起こしたら面倒なことになる。今の自分たちは、追われる身なのだ。とにかく目立たぬようにしなくてはならない時なのだ。

 「あっ、すまぬ」
 ハッと我に返り、慌てて頭を下げた。今の自分たちの立場を思い出したのだ。カリムとて、愚かな王子ではない。こんなところでカナンの姫と問題を起こしてはならないことぐらい理解していた。

 「では、お姫様、私共は先を急ぎますので」
 ダイアナは慇懃に礼をすると、他の二人を促す。少年たちはもう一度、サリヤに頭を下げると、後を追って歩き出した。

 「……何か気になる娘……だわ」
 奇妙な連中であった。そのうち二人は、見たこともない瞳の色をしていた。いや、あの目の色は見たことがある。それも、最近知ったばかりの男の瞳の色だ。去って行く一行を不信げにサリヤは見送っていた。だが、ふと視線の端に今思ったばかりの男の姿が入ると、エルフォンの首を巡らせ、歩かせ始めた。

 「サリヤ、どうかしたのか?」
 あいかわらず無礼な物の言い様だ。だが、決して不愉快ではない。サリヤは多少皮肉を込めた表情で、黄金の仮面に包まれた男の顔を一瞥する。そんな無関心を装ってはいるが、内心の興味は益々高まって行くばかりだ。本当に正体の知れぬ男だ。デュオ人とは異なる、黄金の髪とエメラルド色の瞳を持つ男。異相ではあるが、何処か人を魅了するような引力を持つ。カナンを出て行くと言われた時は、何としても引き留めたいと思った。憎まれ口でも、言いがかりでも構わない。とにかく傍にいて欲しいと思った。一体この男の何に惹かれたというのだろう? 自分自身でも全く理解できない心の動きであった。

 「そなたの、仮面の下には如何なる顔があるのだろうな」
 唐突に、口から質問がこぼれた。何故、素顔を隠している? それは、出会った最初からの疑問であった。だが、何故か尋ねることができずにいた。それは、他のカナン人にしても同じであったのだろうが、誰もそれに対する疑問を口にしない。もしも、正体を知れば後悔するに違いない。開かずの間を開き、災いを世にバラ巻いた、伝説の少女のように。だが、サリヤは知りたくてしかたがなくなっていた。黄金の仮面の下には、きっと美神ナリスの素顔が隠されているに違いないと確信していた。

 「この仮面の下の顔は、他人には見せられないほど醜いのですよ」
 サラリと言って、仮面の男は優雅に笑った。そして、それ以上の会話を拒むかのように、竜を前進させ、サリヤの前に出た。

 「美神ナリス……、その美しさ故に人々を災いに巻き込むと言われる伝説の美神……。そなたこそがそうではないの……?」
 サリヤは口の中でソッとつぶやく。仮面の下には世にも醜い素顔があると本人は言う。だが、信じない。きっとあの黄金の仮面の下には輝くような美しい青年の素顔があるはず。


第一章 第十八話  運命との遭遇! ---了---



PAGETOP


◆第一章 第十九話  死神の足音!◆



 砂塵が舞い、雷鳴のような地響きと共に、デュオ最強の生き物、エルフォンの群が怒濤のごとくカナンに迫っていた。率いるのは身長二メートルはあるかと言う巨人。ゴリラを思わせる、恐ろしい面相の化け物。鋼鉄の鎧を纏った姿は、獣神ゴーラそのものであった。従うのはデスペラードの騎士軍、約三百。デュオ最強の軍隊だ。

「カナンの待ちは全て滅ぼす!女子供と言えど皆殺しにしろ!血の生け贄こそ悪神ドードへの最高の捧げ物だ!」

 獣神が大音声で叫ぶ。それは三百の騎士全体の上に鳴り響いた。恐怖という枷に縛られ、兵たちは黙ってうなずいた。獣神の恐ろしさは身に染みている。たった一人で王宮に殴り込み、数百の兵を惨殺した光景は、彼らのトラウマとなっていた。獣神からは決して逃れられない。反撃しようにも、何物も殺すことはおろか、傷つけることさえ出来ない化け物なのだ。内心、デスロ三世がゴーラに屈して、帰依したと聞かされた時は安堵のため息をついた者も少なくない。あの化け物と戦わなくてすむ。それは、目の前の恐怖が一時的に遠ざかっただけかも知れない。だが、心の弱い人間にとって、それは何よりの救いだった。

 獣神ゴーラを先頭に、三百のエルフォンが駆け抜けて行く。逆らう者は、何人も切り捨てられ、巨大な竜足に踏みにじられた。何度か、カナンの兵とも交戦したが、ほとんどは、先頭を走る獣神に蹴散らされた。王宮を襲った時の圧倒的な力はまるで衰えてはいない。むしろ、戦いの場を得て、益々強力になって行くように思える。

「町だ!行け!悪神ドードへの生け贄を捧げよ!」

 再び、血の競演が始まる。すでに身体中に血の臭いが染みついてしまった騎士たちが無表情にうなずいた。それぞれの得物を手に、町へと駆け込んで行く。隣町からの伝令がデスペラードの侵攻を伝えていたとは言え、辺境の町にはろくな備えもない。町中の武器をかき集めた男たちが待ちかまえているだけであった。巨大なエルフォンに騎乗した兵に敵うはずもなかった。竜足で踏みにじり、槍で突き刺す。大剣で首を切り落とし、首を失った胴をエルフォンが踏み潰した。

 これは戦いではなかった。ただ逃げ回る人々を悪鬼が殺して回る。地獄絵図そのものでしかない。男たちの盾が崩壊すると、家々の蔭に隠れていた女子供の首がはねられた。子供を抱いた母親は、胸の赤子ごと槍で貫かれ、恐怖で泣き叫ぶ子供の頭が大剣で叩き割られる。平穏だった町の大気は血煙で赤く染まり、大地は鮮血の海となった。聞こえるのはまだ死にきれない人々の呻きと、獣神ゴーラの哄笑、そして血に興奮したエルフォンの鳴き声。

「一人も生かしておくな!」

 自らも全身血に染まった獣神が咆哮した。騎士は血走った瞳で周囲を用心深く見回す。ゴーラの命令は絶対だ。もしも逆らい、一人でも見逃したと判明すれば、己自信の命がない。絶対的悪の前に、一欠片の良心は粉々に砕かれてしまう。盲従だけが生きる術だと、この数日の獣神と行動して彼らは悟っていた。

「獣神ゴーラ、もはや町に動く者は一人もおりません」

 竜騎士隊長が怖々と報告する。ゴーラは満足そうにうなずいた。ホッと小さくため息をつく騎士たち。もしも報告が気に入らねば、ただちに死が報告者の上に降りてくる。それが何時、自分の上に落ちてくるか判らない。常に恐怖は彼らの周囲にいた。

「では、次の町に行こうぞ」
「はっ……」

 まだ血が足りぬと言うのか。獣神は、次の犠牲者を欲していた。騎士たちは反射的に敬礼する。決して反論は許されない。例え、疲弊しきっていても、休みたいと望むことはできないのだ。もし、そう言えば、たちどころにゴーラの爪が襲ってくる。

「休みたいのならば、永遠に休むが良い」
 それが獣神の答えなのだ。血に飢えた悪魔。決して疲れを知らないドードの下僕。勇猛果敢で近隣の国々を恐れさせた、デスペラード竜騎士たちでさえ、大地に降臨した獣神の前では借りてきた子猫のように恐れ戦き、震えるばかりであった。



 国境の町が、デスペラード軍に襲撃されたという凶報は、直ちにカナンの岩城にも伝えられた。いつかは襲ってくるであろうと予想していた重臣たちも、あまりにも早い敵の行動に、動揺し、狼狽えた。国王は、直ちに軍議を召集し、対策を諮問する。だが、次々と伝えられる報告に全員が言葉を失っていた。デュオ最強と呼ばれるデスペラード竜騎士の強さはあらかじめ予想していた。しかし、それはあくまでも、人間の技量の範囲での強さであった。

 だが、今のデスペラードは悪魔の力を得ている。悪神ドードの下僕、獣神ゴーラが軍を率いているのだ。獣神の強さは圧倒的だった。矢も剣も、槍でさえ殺すことはおろか、傷つけることさえできないと言う。果たして、この悪魔とどう戦えと言うのだ?幾百万の騎士を敵にしてさえ、ゴーラは倒せぬであろうと、命からがら逃れてきた国境兵士が報告したのだ。どのような物も傷つけることのできない悪魔を相手に、どう戦えと言うのだ?重苦しい沈黙が会議室に沈殿していた。

「陛下、どうか私にお任せください」

 不意に沈黙を破ったのは、竜騎士将軍、ボルクスであった。一同の視線が歴戦の戦士を見つめる。もしかしたら、彼ならばなんとかしてくれるかも知れない。だが、もし破れることがあれば、城を守る者がいなくなる。それは国の滅亡を示していた。

「だめじゃ、そなたはカナンの守りの要、国境へ行くことはならぬ。もしも、そなたの留守に、敵に城を襲撃されたら、誰が守ると言うのじゃ」
「陛下……」

 ボルクスが唇をギュッと噛む。全ての竜騎士を統べる彼が離れれば、城の警備は手薄になる。そうすれば後顧に憂いが残る。共に戦いに出向く騎士たちの心中も穏やかではないはずだ。だがそれならば、誰が行く?デスペラードと違い、カナンは小国。竜騎士もわずか二百騎のみ。歩兵も民兵を会わせて五百が精一杯だ。到底敵ではない。そうと判っていても、降伏はできない。依然のデスペラードならば、それもできたであろう。しかし、今のデスペラードは悪神ドードの下僕、獣神ゴーラの信奉者と成り下がってしまっている。そのような国に破れ、従うことは絶対にできぬ相談であった。悪魔に魂を売るぐらいならば、国を捨て、浪々の民に落ちた方がましであると、全員が思っていた。

「私が行きます!」
「なっ……サリヤ姫……」

 重い空気を打ち払うように、サリヤが宣言した。呆気に取られる重臣一同を少女は厳しい目つきで睨みつける。誰にも文句は言わせないぞ、と言う迫力のある視線を受け、ほとんどの重臣たちが口を閉ざす。

「それはなりません」

 ボルクスがかろうじて口火を切った。彼にとって、サリヤは自分の娘同然に守り育てた大切な宝玉。そんな彼女をむざむざと危険な死地に追いやることはできない。報告を聞いて、敵を率いている獣神の強さは尋常ではないことは、判っている。ボルクスでさえ、今回の戦に勝てる自信は全くなかった。矢でも剣でも、槍でも傷つけることさえできない化け物をどう倒したらよいのか、全く方策が思いつかない。己が出兵を志願したのは、少しでも時間を稼ぐことができればという思いからであった。自分が戦っている間、なんとか獣神を倒す方策を探って欲しい。それが本意であった。カナンの姫が戦に出るなどと、望んでもいない。

「私が敵を足止めします。その間に、化け物を倒す方法を考えだしなさい!」

 キッと眉をつり上げ、一同を眺め回す。ボルクスはホッと小さくため息をついた。なんと言うことだ。姫も全く同じことを考えていた。守り役、教育係のボルクスと同一の行動パターンを姫は身につけてしまっていたのだ。己の危険よりも、国全体のことを考えてしまう。はっきり言って、これは教育係りの責任である。ボルクスの心中に後悔の念が渦巻く。しかし、一方、そんな姫にうれしくもあった。

「姫を危険な戦いに向かわせるわけには行きませぬ。やはり私が参らねばなりませんな」

 ボルクスが重々しく言うと、無言の同意が重臣たちの中で波打った。最年長の王族の姫が最も危険な戦いに出向くなど、言語道断である。そのようなこと、許すくらいなら、竜騎士将軍、ボルクスを派遣する。彼らの目はそう語っていた。

「でも、それでは……」

 サリヤはまだ何かを言い募ろうとした。だが、ボルクスの鋭い眼光に気圧され、何も言えなくなった。いくらサリヤが男勝りだと言っても、あくまでも姫は姫。本気の騎士には到底敵わない。それは、先日のデスペラード兵たちとの戦いで身に染みていた。あの時、謎の仮面騎士、フォレストに助けられていなければ、敵の虜にされていた。あの卓越した舞うような剣技がまざまざと思い出される。もしも自分にあれほどの剣が使えたら、ボルクスを後顧の憂いなく、戦いに送り出せるのに。自分の剣の未熟さが口惜しい。サリヤは唇をギュッと噛みしめた。

「あの客人は強いのかね?」
 不意に、間の抜けた声音が場の空気を破った。サリヤがハッとして顔を上げる。父、フラン七世だ。あの客人とは、仮面の騎士、フォレストのことに違いない。だが、何故、今?疑惑と不信の視線が国王に集中する。

「フォレスト殿の剣技は素晴らしいものでありました。それに、戦略家としての才能も確かかと」

 ボルクスが、目を閉じ、あの場面を思い出しているかのような口調で答える。サリヤも、たった今、思い出した仮面騎士の技と力を思い浮かべた。あの男は剣だけではない。多くは語らぬが、その頭脳には、計り知れないものがある。決して地位とか身分とかで考えを曲げてしまわない強さがあった。サリヤが自分の苦しみを打ち明けた時も、ズケズケと意見を述べた。その時は怒りに頭が一杯になった。だが、時間が過ぎてみれば彼の言葉が無神経に出たものではないと判ってくる。彼の目は今を見てはいない。十年、二十年、いや百年も先を見ているのではないかと思われた。

「ふむ……、それならばそのフォレストとかに頼むわけには行かぬか?」
「なっ……」

 フラン七世の言葉は、重臣たちを絶句させた。なんと、見も知らぬ放浪者に国の守護を頼むと言うのだ。正に、驚天動地の提案である。もしも、数百の兵を任せ、フォレストが裏切れば、カナンの滅亡は目に見えている。いや、それよりも、本当にその男は頼りになるのか?金髪碧眼という異形の男をそう簡単に信じて良いのか?様々な不安が彼らの心中で渦巻く。それに、そんな頼みを果たして聞いてくれるのだろうか?悪魔にも等しい化け物、自らを獣神ゴーラと呼ぶ相手に、戦ってくれるだろうか?それも、何の恩も義理もない国のために?

「とにかく頼んでみるか……」

 わずかなため息と共にボルクスが言った。誰も応える者はいない。一国の運命を異邦人に委ねなくてはならない。それがどんなに屈辱的か……



 獣神討伐の依頼は、断られるに違いないとサリヤは思っていた。あの氷のように冷たい男が、何の得にもならない頼みを聞くとは到底信じられなかったからである。何事も無関心。例え、目の前で人が殺されようと、無表情に見つめるだけの冷血漢だ。

「よかろう。その依頼、引き受けた」
「えっ……?」

 だが、予想に反し、フォレストはアッサリと承知した。あまりにも信じられない返事に、サリヤとボルクスは唖然と相手を見つめる。彼らの依頼は、ハッキリ言って図々しいものである。カナン国とは何の関わりもない、ただの放浪者が、何故そのような危険な頼みを聞く必要がある?例え、断ったからと言って、決して恥ではない。むしろ、そのような依頼をするカナン国の方が非常識なのだ。

「ただし、一つだけ条件がある」
 仮面の下のエメラルドが、キラリと光った。何を企んでいる?サリヤの顔にサッと緊張が走った。条件?一体この男は何が欲しい?金か?地位か?それとも……

「サリヤ殿を……」
「な……?」

 交渉人のボルクスの顔色が変わった。サリヤを望む?それは、カナンの王位を望むと言うことだ。サリヤは王女であるがため、王位継承権は持たない。だが、婚姻し、その相手が実力者であれば、姫の後見人として権力を掌握することも可能になる。もちろん、唯一の王子である、ニーノ王子を擁立しようとする一派がそれを認めればの話ではあるが……。

「お主の目的はカナン国の玉座か?」
「ふっ……」
 厳しい眼光でにらみつけるボルクスの視線を受けて、フォレストが苦笑した。

「こんな小さな国の王座など何の魅力がある?つまらぬ想像は止すのだな」
「小国の王座など魅力がないと?」

 思わず鼻白むボルクスとサリヤ。なんという侮辱。例え、小国といえど、国としての誇りがある。それを、嘲笑うかのような仮面の男の暴言に、二人共、顔面を真っ赤にしていた。

「それに、誰がサリヤ殿を嫁に欲しいと言った?」
「はあ……?」
「私の条件とは、サリヤ殿をこの岩城から一歩も出さないで欲しいということだ。姫のようなじゃじゃ馬に出てこられては、勝てる戦も勝てなくなる。先日のように、人質にでも取られてしまうと、私は構わぬが、兵たちが困るであろう」
「なっ……」

 サリヤの顔が益々赤く変色する。じゃじゃ馬と罵倒され、邪魔者と決めつけられたのだ。このような侮辱、生まれて初めてだった。だが、言い返すことはできない。実際、そのような醜態をフォレストの前で演じてしまったのだ。男勝りで、怖い者知らずだったサリヤは、危うくデスペラードの兵に人質にされるところだった。それを平然と助けてくれたのは、フォレスト。どう言い訳しても、それは隠しようのない事実だった。

「判りました。どうせ私は足手まといのじゃじゃ馬ですよ!おとなしく城に控えていれば良いのでしょう!」
 吐き捨てるように言うと、サリヤは室を出て行った。チラッと見えた両眼には、悔し涙がにじんでいる。よほど悔しかったに違いない。

「もう少し優しい言い方はできないものかねえ。あれでも、サリヤ様は一国の王女殿下なのですぞ」
 ボルクスがため息混じりに言う。

「では、甘い言葉をかけて、足手まといな姫と共に化け物に対峙せよと?」
「いや……」

 逡巡するボルクス。確かにああでも言わなくては、サリヤは仮面の男と共に侵略者争闘に出兵すると主張したに違いない。自分こそがカナン国を守護しなくてはならないと思いこんでいる。国の生死をよそ者の手に任せるなど、彼女の辞書にはない。そんな姫を戦いから遠ざけるには、あのような手段しかないであろう。己自身が邪魔者だと悟る以外、参戦しようと言う気持ちは返られないはずであった。

「それにしても、女心の判らぬ男だ……」

 マントを翻し、立ち去って行く仮面の男を、複雑な眼差しでカナン竜騎士将軍は見送る。本当に理解不可能な男だ。仮面のせいだけではなく、常に感情を表に出さない冷静さ。時には、それが冷たい人間なのではと感じさせるほど容赦がない。にも関わらず、この男ならば、と何かを期待させる雰囲気がある。カナンのような小国と言いながら、特に何の代償も求めず、戦いに挑もうとしている。何故だ?何が望みなのだ?地位や名誉をハッキリと口にされた方が余程安心できる。何も望まぬ人間などいるはずがない。カナンに恩を売り、人心をつかんだ後は、どうする?今は黙って見守るしかない。ボルクスは腕を組むと、瞑目した。



第一章 第十九話  死神の足音! ---了---



PAGETOP


◆第一章 第二十話  デスペラード再び!◆



デスペラードとカナンの国境を挟むように屹立するゴーラ山。その頂上からは常に炎と白煙が立ち上っている活火山である。足下に広がる樹海は人を惑わす妖魔が棲むという。人々は獣神の祟りを恐れ、近づこうとはしない。だが、そんな魔界のような森の中に動く者の姿があった。妖魔だろうか? 知らず迷い込んだ猟師の表情が緊張する。獲物を追ってついついゴーラの樹海に迷い込んでしまった。早くここから出なければ、妖魔に食い殺されてしまう。

猟師の心は恐怖と焦燥で一杯であった。どちらに行けば樹海から出られるだろう? 心細く空を見上げる。だが、運悪く樹木の蔭になって、空に輝いているはずの太陽は見えない。これでは西も東も判らない。途方に暮れた視線が何か光る物を捕らえた。こんな深森に光る物があるとは信じられない。疑惑と興味で、猟師が怖々と視線を向ける。

 「人だ……」

 驚愕で瞳が大きく見開かれた。キラキラと光って見えたのは人の髪の毛だ。月の光の糸がそのまま降りてきたような、プラチナブロンドの髪の女だった。普通のデュオ人は海のようなマリンブルーの髪の色をしている。だが、目の前にいる女は違う。ゴーラ山に棲む妖魔? それにしても、美しい女だった。雪のように白い肌、紅の唇、そして整った鼻梁。それに、フワッと開かれた瞳は、深い湖を思わせるようなエメラルド色。正に、美の象徴、月神シャラそのものだ。吾を忘れて猟師は女を見つめた。と、その時、女が顔を上げる。同時に、何かが女の懐から飛び出してきた。

 「ミャーッ!」

 純白の雪の塊のようなそれが、猟師に体当たりをしてきた。驚いて飛び退く。フワリと地上に降り立ったそれを見て愕然となる。猫だ。それも雪のように真っ白な猫が地面に爪を立ててにらんでいる。だが、何処か普通の猫とは違って見えた。何処が何処と言うのではないが、ジッと見つめている金色の瞳には、何か無機質な感じがするのだ。もしかしたら、妖魔が化けているのでは? 猟師の心に、ふとそんな考えが浮かんだ。

 「ミャーッ!」
 不意に猫が笑った。思わずビクッと後ずさる猟師。が次の瞬間、恐ろしいことが起こった。猫の目が太陽のように光ったのだ。

 「ばっ、化け物! 妖魔だーっ!」
 猟師の中で、最後まで止まっていた自制心の糸が切れた。恐怖と言う鋏が、勇気の糸を断ち切ったのだ。腰を抜かし、這うようにして猟師は走り去って行った。恐らく、彼はこう言うだろう。

 「ゴーラの森で妖魔に出会った。それは世にも恐ろしい化け物で、目が太陽のように輝き、もう少しで食われるところだった」と。この噂を聞けば、この近辺の者は、森には近づいてこないだろう。ただでさえ、ゴーラの森は妖魔が棲むと言われ、怖がられていた。そこに、本当に化け物が現れたのだ。

 「ユキ、よくやったわ」
 プラチナブロンドの美女が、ニッコリと微笑んで猫を呼ぶ。ユキはキョトンと首をかしげ、ダイアナの懐へと戻って行った。

 「侵入者は追っ払ったようですな」
 騎士バランがチラッと猟師の走り去った方角を見やり、笑みを浮かべた。背後には二人の少年もいる。

 「しかし、臆病な男だ。たかだか猫の目が光ったぐらいで逃げてしまうとは、あれでもデスペラードの男か?」
 背の高い方の少年が、憮然と腕組みをする。彼は亡国の王子、カリムである。傷が癒え、やっと女装から解放されていた。もちろん、王子と判らないように、フェリオと同じような旅の傭兵風の姿ではある。だが、やっと男に戻れたとっいう開放感が表情にありありと浮かんでいた。そして、密かに胸をなで下ろしていた者が一人。女装の王子があまりにも愛しいライヤに似ていたため、心穏やかではなかったフェリオであった。傭兵姿のカリムは、やはり凛々しい少年だ。そんな彼を見ても心は騒がない。これで安心して傍にいられる。フェリオは気づかれないように小さくため息をついた。

 「月神シャラ、獣神がカナンに攻撃を始めたと村の者が噂しておりました」
 「そのようですね。あの男は血に飢えた獣です。女子供の命さえ平気で奪っている」
 「えっ……? 何故それをご存じなので? 私はたった今村に降りて行って、聞いてきたばかりなのに……」
 「ユキが教えてくれたのよ。この子は何んでも知っているの」
 「はあ……? この猫が……」

 バランは何か気持ちの悪い物でも見るように、ダイアナの膝で丸くなっているユキを見つめる。見かけは可愛い猫だが、その潜在した力は計り知れない。目から強烈な光を発することもあるし、その光は時として岩をも溶かす力がある。それに、一度だけ見たが、ユキの牙はエルフォンの強固な皮膚をも破る。正に、月神のお使いにふさわしい動物であった。

 「今がチャンスね」
 「はあ?」
 「恐るべき獣神が留守なのよ。この隙に王宮を取り戻すべきだわ」
 「王宮を取り戻す?」
 アッサリと言う美女を唖然と見つめ直す。

 「あらっ、何を驚いているの? デスペラードは獣神、たった一人に滅ぼされてしまったのでしょう? だったら、鬼の居ぬ間に取り戻すのよ」
 「なるほど……」

 目を半眼に閉じたカリムがうなずく。あの化け物さえいなければ、王宮を取り戻すことも可能だ。だが、心配なこともある。例え、一旦は王宮を取り戻したとしても、あの化け物が戻ってきたらどうなる。またあの惨劇を繰り返すだけではないのか?どのような武器も、獣神を傷つけることさえできない。それをどうやって防ぐのだ? ただ犠牲者を増やすだけではないのか? 

 「あいつのことは私に任せて。多分、倒せると思うわ」
 ダイアナが余裕の笑みを浮かべる。だが、実際に悪魔のような力を発揮した獣神ゴーラを見ている二人には、どうしても不安を拭い切れない。

 「大丈夫、ダイアナさんは本当に強いから。あの砂漠の魔物、ダムリンだって素手でやっつけちゃったんだよ」
 「ダムリンを……」
 フェリオが安心させるように言うと、カリムとバランは目を大きく見開いてダイアナを見た。芸術の神が精魂込めて造ったような完璧な美女。か細いとさえ見える手足の何処にそんな力があると言うのだろう? もしかしたら、フェリオは、二人を安心させるために、大袈裟なことを言っているのではないだろうか? 

 「ねえ、その化け物はこんなこともできた?」
 「えっ?」
 如何にも不安だという顔をしている二人に向かって、ダイアナがニッコリと微笑み、スタスタと歩いて、大岩の前に立った。何をする気なのだろう? 唖然と見つめる男たちの目を気にするでもなく、岩の表面を撫でている。と、いきなり、大きく息を吸って、拳を岩に叩きつけた。

 「そっ……そんな……」
 「月神シャラ……」
 「……」
 全員が言葉を失った。ダイアナの強さを知っていると思っていたフェリオでさえ、目を見開いたまま絶句している。ダイアナの拳が当たった瞬間、大岩が吹っ飛んでしまったのだ。彼らにとって、これは奇跡としか思えなかった。月神シャラは勝利の女神。彼女さえいれば、デスペラード奪還も夢ではないと信じられた。

 「月神シャラ、我らが勝利の女神」
 「我がデスペラードに光りを」
 二人のデスペラード人がダイアナの前に跪いた。ダイアナは少し困ったような顔でフェリオを見る。が、少年の目にも崇拝の色を見て、小さくため息をついた。

 「何度も言うけれど、私は月神でも、シャラでもないのよ。私の名はダイアナ。ダ・イ・ア・ナ・」
 「判りました、月神。この世での名はダイアナ様ですね。月神ダイアナ」
 「あのねえ……、あなたたち……」
 更に何か言おうとしたが、三人の真剣に崇める目を見て、諦めのため息をついた。どうせ、ゲリオール・ウッズマンの送り込んだ工作員を倒すまでのことだ。何と呼ばれようと無視することにした。次なる目標はデスペラード。なんとしても、グレン・バズトール、獣神の本拠地を叩いておかなくてはならない。



 王国を獣神の手から奪還しようとしているカリムたちとは別に、ヒタヒタと王宮に近づく騎竜の一団があった。中央に立つのは漆黒の布に刺繍された黄金の竜の旗印。デスペラード騎竜隊の紋章であった。率いるのは騎竜将軍エルドラン。獣神に帰依したデスペラード王、デスロ三世を武力をもって窘めんと立ち上がったのである。何物も殺すことはおろか傷つけることもできぬ獣神ゴーラの留守を狙い、進軍したのであった。逆賊の汚名を着てもなお、王に諌言しなければならない。それが長年、将軍としてデスペラード軍に使えてきた者の勤めだ。例え、王の逆鱗に触れ、首を斬られたとしても、これだけはやらなくてはならない。それが将軍として最後の責務だと信じての決起であった。

 「将軍、王宮が見えてきました」
 副将軍オルトリオが、やはりやるのかと念を押すように将軍の顔を見た。ここまできたらやるしかない。エルドランは静かにうなずいた。一命を賭けても、王を説得しなくてはならない。

 「獣神のいない間に、王を説得するのだ。我らは戦神ディーンを奉る栄えあるデスペラードの戦士だ。決して悪神ドードの下僕ではない!」
 「おーっ!」
 騎士たちの間にどよめきが起こる。今の言葉こそ、彼らの心の叫びだった。今は逆賊の汚名を着てはいるが、決して国を裏切ってはいない。心から国を愛し、王家を誇りにしている戦士たちであった。総勢百騎の軍竜が堂々の行進を始めた。目指すはデスペラード王宮。

 「将軍」
 「どうしたオルトリオ?」
 「この場に、カリム殿下さえおられれば、騎士たちも……。申しわけありません。私がもう少し早く駆けつければ……」
 「言うな! それに、我らが決起したことが知れれば、王子殿下はきっと姿を現してくださる。そうすれば、我らの汚名は殿下が必ず濯いでくださるに違いない」

 エルドランの顔にも苦渋がにじみ出ていた。副将軍の罪ではない。あの時、王子の身の安全をはかるため、若い騎士に王子を任せたのはエルドラン自信だ。もしも、副将軍が後を追ってくることを知っていれば、なんとしても王子を守りきったものを。神ならぬ身の悲しさ、王子を先に逃がしてしまった。その後、直ぐに後を追って捜したのだが、王子はおろか、騎士の姿さえ見つけることはできなかった。ただ、王子を運んでいた竜車の無惨な残骸だけが見つかっただけであった。王子の身に何かあったとは信じたくない。

 もしも、現国王デスロ三世が獣神の掌中から出ることを拒んだ時、カリムを擁立しようと考えていたのだが、当人が行方不明ではどうしようもない。このまま王宮へ突入すれば、どちらに転んだとしても、彼らは反逆者でしかない。そのことが判っているだろうに、騎士たちは誰も文句一つ言わない。ただひたすら、エルドランを信じ、ついてきてくれている。

 「皆、すまぬ」
 口の中でそっと部下たちに詫びる将軍であった。


第一章 第二十話  デスペラード再び! ---了---



PAGETOPへ    デュオの仮面騎士の目次へ戻る    長編小説目次へ戻る